第33話

依存症
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2021/08/03 12:52














ウィスパー「ケータくん、今日はお散歩にでも行きませんか?」


ジバニャン「そうニャン!今日はいいお天気ニャンよ!」








白い部屋。

俺の昔からの友達は、俺にとびっきりの笑顔で言ってくる。
俺はその意見に静かに首を振って否定してから、ふたりに言った。






「いいんだよ。俺は、ふたりと一緒にいたいんだ。ねぇ、おはなしきかせてよ。」




俺がもう出られない外の世界。今まで出ていた外の世界。
でも今ではもう俺の世界の中心はここで。世界の全てはこの小さな白い部屋だった。

俺は外で思いっきり遊んでいるふたりに提案した意見は、何故だか涙腺を刺激したようだ。



俺はそんなふたりを見て、昔も今も変わらない、と安心感を覚えた。






ジバニャン「それじゃあ、昔の話でもしようニャン。じんめん犬とか、コマさんとか、」


ウィスパー「ハナホ人とか、アンドロイド山田もいましたね!」




「ははは。懐かしいなあ…みんな、会いにきてくれているのに、俺にはもう見えないよ」






俺の世界は真っ黒だ。何も見えない。

でも心の中は楽しくて、カラフルな色をしていた。それだけで十分だ。
たまに懐かしい声もして、その声に触れる度、色が重なって行くような気がした。



俺は右手に暖かい温もりを感じながら、ふたりの話を聞いていた。







ジバニャン「また、会いに行こうニャン、ケータ。みんな待ってるニャンよ」
ウィスパー「そうですケータきゅん!勿論この私も、いつでもウェルカムですからねぇはい!」








返事がない。



ジバニャンはそんなケータが気になり顔を覗こうとベットによじ登る。
そしてケータの顔を見ると、ケータはゆったりとした笑顔で眠っていた。

お昼の日光に照らされて、とても儚くて、



今にでも消えてしまいそうな__









ピーピーピーピー







けたたましい警告音が流れる。


これは心臓があまり起動していない時に起こる機械の音だ。
おれっちはケータの顔を見つめたまま、動けなかった。

ウィスパーは後ろで焦っていたが、その音を聞きつけた医師と看護師が病室に入ってきて、緊急治療室へと運んだ。



おれっちは寝台へ動かされるケータの顔を、さっきまでケータが寝ていたベッドで見つめていた。








ジバニャン「けー……た…?」






ベッドについている足は、さっきまでのケータの温もりで暖かかった。
ぼふりとベッドに崩れ落ちると、ケータの温もりが全身で感じられた。

ケータのにおい。ぬくもり。こえ。かお。ひとみ。やさしさ。やわらかさ。







その全てがあの顔に含まれていたような気がして。







全てをやり切ったという顔に見えて。












「ありがとう」と、おれっちに言っているような気がして。








おれっちは、おれっちは、








おれっちは、なにをしているんだろう………

















そう泣いているおれっちにウィスパーは背中に手を置き、「帰りましょ」と言った。













_____
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ある丘。









USA「もう過去に戻らなくていいんダニ?」



ジバニャン「…んにゃ。もうケータは死んだ人間なんだニャ…」


ウィスパー「あーたこそ、イナホさんどうなんでうぃす?会いに行ってるんでしょーが」







黄色いうさぎの着ぐるみを着た妖怪は、笑った。



















USA「アイツ、しぶといから…前とは違う姿だけど、会えたんダニ。そのうちユー達も会えるダニよ」






























「人生における大切な人は、貴方が手放さない限り絶対に消えないのだから。」

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