第14話

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2026/01/18 14:24 更新




















 さっきの恭平の言葉や表情が、頭から離れへん。


 どこからが偽りやったんかと考えるだけで、楽しかった記憶を思い出すことすら抵抗が生まれてしまう。
道枝駿佑
……っ、なんでや

 涙が出そうになり、下唇を噛み締める。


 恭平との関係の修復はできず、逆に悪化してしまった。


 もう僕達は元に戻れへんかもしれへん。


 楽屋に戻り、他メンバー達の賑やかな声を聞きながら、楽しかった頃の自分達を思い出してますます気分が沈んでいく。


 楽屋の隅に恐る恐る視線を向ける。


 恭平は椅子に座っとって、この場所からは背中しか見えへん。


 僕が大橋くんに話したことで、噂が広がったと言っとったことが気になる。


 大橋くんに、僕達が揉めた詳しい事は言ってへん。


 スマホにメッセージを打ち込み、【恭平がメンバー間で揉めとること、スタッフ間とかネット上で広まっとるってほんまっすか?】


 僕はネットなどをあまり見ない。


 やから、ネットなどの話題は他メンバーから情報を得る。


 【恭平が大ちゃんの真似を必要以上にしたとか、仲間割れがあったとか流れとるで!みっちーが悩んどることってこれやろ?】


 ……どういうことや?


 揉めた内容を詳しく知っとるんは―僕達メンバー7人だけのはず。


 返事をする前に、大橋くんからメッセージが届いた。


 【特に大ちゃんファンがネット上で恭平にブチ切れててヤバイ】


 なにふぁむにまで俺らが揉めとることがとうとうバレてしまった。


 【自担が嫌がることをされたからってことっすか?】


 【そーみたいやね。恭平が大ちゃんと喧嘩するぐらいのことをしたんやとか、恭平担が自担嫌いになったわとか、とにかくアンチコメントがヤバイ】


 僕達の問題は、なにふぁむの関係までも駄目にしてしまった。


 でもどうして恭平は、僕が大橋くんに全てを話したと思い込んどるんやろう。


 誤解を解きたいけど、どうするべきなんかがわからへん。


 悩んどると、背後からいきなり抱きつかれた。
西畑大吾
みっちー!これ美味かったから、おすそわけ!

 大吾くんは僕の机の上に赤色の長方形の箱を置くと、食べてみてや!と声を弾ませながら勧めてくる。


 その箱には、チョコレートの中にイチゴソースが入っとるイラストが描いてあった。


 任期シリーズ物で、バレンタインが近いため新作が出たらしい。
道枝駿佑
ありがとうございます、1粒貰いますね
西畑大吾
ええで〜!

 箱に手を伸ばすと、抱きついていた大吾くんが離れた。


 そして空いとる目の前の席に座り、なにかを探るように上目遣いで見つめてくる。
西畑大吾
なぁ、みっちー。さっきどっか行ってたよな
道枝駿佑
あ、えっと

 トイレに行っとったと言おうか迷う。


 最近早く仕事に来るようになった大吾くんは普段とは違う僕の行動について指摘しているんや。


 誤魔化しは通用せえへん気がする。
西畑大吾
なに話してたん?
道枝駿佑
え……

 大吾くんは僕が恭平と話しとったことに気づいてるんすか?


 やけどそれを僕の口から聞いてしまえば、恭平と2人で話した内容を伝えへんと、大吾くんは納得せえへんはずや。
西畑大吾
俺に話せへんこと?

 僕が恭平に嫌われとったことを知られたない。


 それに、告げ口のようになって、ますます関係が悪化してしまうのも怖かった。


 頭ん中で必死に言葉を選ぶ。
道枝駿佑
今はちょっと1人で考えたいことがあって

 僅かな反応にすら神経を尖らせて、様子を伺いながら大吾くんを見つめる。
西畑大吾
ふーん

 僕を探るように大吾くんが目を細めた。


 数秒沈黙が続くだけで、呼吸すらも躊躇うほどの重たい空気が流れる。
西畑大吾
そっか、わかったで

 大吾くんは意外にもあっさりと引き下がった。


 打ち明けなければ、不満そうにされるかと思っとったから驚いた。
西畑大吾
話したくなったらいつでも言ってな!
道枝駿佑
……はい。ありがとうございます

 追及されへんかったことに安堵して、大吾くんから貰った一粒のチョコレートを口に入れた。


 ほろ苦い味が口内に広がり、すぐにイチゴの甘酸っぱいソースがとろけ出す。


 大吾くんに視線を移すと、思い詰めたような表情でこっちを見ていた。
道枝駿佑
どうしました?
西畑大吾
俺さー、学生の時友達に嘘つかれたことあったんよね

 大吾くんが過去の話をするのは珍しい。


 最近の話は自分からすることが多いけど、あまり昔の話はしたがらないんや。
西畑大吾
親友やって言ってたんに、他ん子の前では、俺といると女子と話しやすいから仲良くしとるだけやって言っててさ

 結局利用されとっただけやったと大吾くんが寂しそうにこぼす。


 やから恭平の件も、以前のことと重なって過剰に反応してしまったそうや。
西畑大吾
自分に都合のええことしか見えてへんくて、裏で悪く言っとるやつなんて信用できひんやん?そういう人、ほんま嫌い

 もしもこのことを恭平が先に知っとったら、なにか変わっていたんやろうか。
西畑大吾
それに、やられっぱなしで黙っとるのって嫌なんよね

 恭平に舌打ちをしたり、睨みつけとる姿を思い出して、僕は手のひらを握り締める。
道枝駿佑
……大吾くんは、恭平と話し合う気はないんすか?
西畑大吾
恭平次第やない?

 大吾くんから声をかける気はない。


 そのことに安堵してしまい、自分の中に抱いた醜い感情に気づいてしまう。


 大吾くんと恭平が仲直りをしたら、恭平に嫌われとる僕はどうなるんやろう。


 僕が言いふらしたと思っとる恭平は、そのことを大吾くんに話すかもしれへん。


 自分の居場所を失う可能性が頭を過り、血の気が引いてく。
西畑大吾
なあ、みっちー

 大吾くんは僕の机の上で頬杖をつきながら、にっこりと微笑む。
西畑大吾
俺に絶対嘘つかないでや

 呼吸が、一瞬止まった。


 ―早く。


 早く答えへんと。


 僕は内心かなり焦りながら、できるだけ落ち着いた声音で答えた。
道枝駿佑
……約束します

 嘘をつかへん。


 たったそれだけに思える約束。


 けど大吾くんの言葉は、鎖のように僕の喉に絡みつき、そっと締め上げてくる。
西畑大吾
そのチョコ、美味いやろ?

 もしも約束を破ったと思われたら、僕は大吾くんに嫌われるやろう。


 そうならへんように自分が気をつければええ。


 わかっとっても、約束はまるで呪いのように僕の動きを鈍くさせる。
道枝駿佑
はい、美味いっすね

 大吾くんから目を逸らすことができひんまま、芽生えはじめた恐怖を笑顔で隠す。


 イチゴの風味は消えて、口の中には苦味だけが残っとった。




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