第十七話‐前回③
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一瞬だけ瞳を揺らす彼に戸惑った様子が窺えた。だけど今さらそんな反応してももうダメだよ、とそんな思いできゅっと彼の袖を引っ張れば、松野君は私の言葉に従って腰を軽く屈めた。
綺麗な形をした耳だなぁ、なんて呑気に思いながらも私は手を震わせて彼の耳に手を添える。
まさか成り行きでこんな風に松野君に告白するなんて思ってもいなかった。だけど、もう後には引けない。
あの日後輩君たちの前で手を繋がれた時、吊り橋効果で松野君を好きになったのかもしれない。もしくはもっと前からだったのかも。
どちらにせよ、私はもう自分に嘘をつけないくらいに松野君を好きになっていた。
「夢野?」
「…好き。喧嘩するたびに悲しくなっちゃうくらいには松野君のこと男の子として好きだよ」
「え、」
松野君は勢いよくこちらへ振り向いて、そして私は息がかかっちゃうくらいの距離にびっくりして呼吸の仕方を忘れる。
時間が止まったように私たちは見つめ合って、風で揺れる松野君の髪先すら今は愛おしい。
あー、でも今すっごい泣きそうだ。
これ以上は耐えきれなくなって目を逸らそうとすればようやく松野君が口を開いた。
だけど、今からかけられる言葉はきっと私の心をひどく傷つけるのだろう。そう悟った瞬間、私は途端に振られるのが怖くなってぎゅっと耳を塞いだ。
「へ、返事いらない…!私に好かれても松野君が迷惑するのは分かってるから!」
「は、ちょっ、おい」
いつだって私に冷たい彼のことだ。私が告白をした今だってきっと好きじゃないと突っぱねて猫のようにどこかに行ってしまうのだろう。
だったらそうなる前に一つだけ彼に私の我が儘を聞いて欲しかった。きっとこれが最初で最後になる。それなら後悔がないように全てをちゃんと伝えなきゃ、そう勇気を出すと私は耳を塞いでいた手をゆっくりと外してもう一度彼に向き直った。
「も、もう松野君にも…ううん、場地君にも顔見せないようにするから…最後に我が儘聞いて欲しい…」
バクバクと心臓が跳ね上がる中そう呟けば、松野君は掠れた声で「なに」と尋ねた。
「ぎゅってして欲しい」
なに言ってんだって笑われちゃうかもしれない。それでももし最後にそんな思い出が作れたらもう心残りなんて無い。絶対キッパリと忘れてみせる。
そう自分に言い聞かせて松野君を見れば、彼は嫌がる素振りも無く澄ました表情で「ん」と手を広げていた。
何の躊躇いもない姿に、松野君ってこんなにスマートでかっこいいのか、なんてまた胸を高鳴らせて私は彼の腕の中へと飛び込んだ。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。