そう言って彼女が取り出したのは、1冊の雑誌。
「ハイカラウォーカー」は、地上のイカ達の雑誌。地下にいるタコには手に入る物ではない。ましてや、私達見習いタコゾネスなんて。
珊瑚?よく分からないが、イカに貰うなんて、やっぱりハチらしいな。
空という物を、私達タコは見たことがない。見れない。
と言うのも、地上をイカ達に取られてしまっているからだ。
大昔のバトルで、私達タコが負けてしまったかららしい。
…どうして争うのだろうか。一緒に平和に暮らせばいいのに。
そんなことを考える。
すると、それを見透かしたようにハチが言う。
そう言った彼女の横顔は、今までの言動からは考えられない程に、悲しい表情だった。
そう言って私は笑う。
"笑おうとする"。
そうすると、ハチが不思議そうな顔をして、話しかけてきた。
その通りだ。
私は笑えない。繕うしかない。
どんなに悲しいことがあったって心からの涙は出てこない。
少し沈黙が続く。
ハチが我に帰ったように言う。
今だって何も感じない。
脳内にインプットされた文章を口に出しているだけ。
…何も感じない。
そう言って私の背中を優しく叩くハチの手は、とても暖かかった。
これでも何も感じない私は、とても薄情だ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。