ツウィが指を差した先に居たのは、廊下で立ち話をしているミナとあなた。
メンバーも当の本人達も、あの謎の現象について誰一人知らなかった頃。
ミナとあなたは本当に仲が良かった。
なのに、何で。
タオルを首にかけたあなたが暑そうに襟をぱたぱたさせながら、挨拶をしてきた。
この頃既に、あなたを見ると自然と嬉しくなっちゃって、いつもドキドキして、それくらい彼女に興味を惹かれている自分がいた。
あなたも練習を終えて、退勤するところかな。
増してやこういうことも恥ずかしがることなく平坦と言ってくるから怖い。
もっと怖いのが、これが無自覚だってこと。
人付き合いが苦手そうだけど、すごく気の利く子で。
塩対応と無愛想がデフォルト。
それでも、この落ち着いた感じがなんとなく好きだったの。
あなたとは謎に意思疎通していった。
趣味も似てるし、初めて後輩で物凄く仲良くなれそうな子を見つけたと思った。
鏡越しに体育座りをして私のダンスを見てくれていたあなたと目が合う。
彼女が立ち上がると、その背の高さとスタイルの良さに圧倒されてしまうのはいつものことだ。
あなたが無言でゆっくりと近づいてくる。
私の目の前で止まると、なぜか顔を近づけてきて。
あなたはさっきの私のダンスの一部をスマホで撮っていたらしい。
進展なんかあるはずない、そう分かっていても、どこか変に期待してたの。
あなたがにこりと笑った。
あの無愛想なあなたの笑顔、私は透かさずスマホを取り出す。
嫌々笑顔をキープするあなた。
さっきみたいに自然な笑顔ではなくなっちゃったけど、あなたは笑ってるだけでも貴重。
後でメンバーに見せよう。
……いや、私だけが知ってたらいいか。
皆の知らないあなたは、私だけが知っていたらいい。
この頃は独占欲まで湧いていたのにな。
.
隠れようとした時にはもう遅かった。
途中まで一緒に帰ろうって約束してたのに、メンバーのせいで台無しになった。
私はメンバーの方に顔を向ける。
すると誰一人まともな顔をしていなかった。
すごく驚いた顔を全員に向けられている。
"ミナおんに!?!?"
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!