気がつけば保健室のベッドで眠っていて。
呼吸も落ち着いている。
何もなかったかのように。
無機質な天井を見つめる。
「今回は、…」
今回は前回よりも鮮明だった。
毎回思い出すたびに鮮明になっていく過去、一体私は何でこんなにピアノを恐れるようになったんだっけ?
思い出そうとすれば怖くて、
思い出せないのは逆に不安で、
ただ、蒼君の音は嫌いじゃなかった。でも…
「でも、蒼君の音を聞けば聞くほど苦しい過去しか見えない」
蒼君は上手だ、ただ、私と違う。まるで…
「楽譜なんて、存在していないかみたい…」
急に視界がぼやけて、目の周りが熱くなる。
こめかみのあたりを伝って涙は耳を撫でる。
「うっ、うぅ…うぁ、うぁああ…」
両手を目に当て、力なく溢れる涙を無意識に拭い続ける。
拭っても拭っても、絶対に止まらない涙を、ずっとずっと拭い続ける。
ずっと、ずっと、この過去から解き放されない限りきっと、きっと止まることなどない涙を。
こんなに鮮明に死の予感を肌に感じて、
泣かない人などいるだろうか?
死ぬのが怖い。とてつもなく怖い、怖い。
ふと、涙を拭う手を止める。
右手首に目をやる、
そこにはくっきりと赤い線があった、
毎日毎日現実逃避をしたくて切り続けた痕。日に日に増えていく痕。
私、別に、…
「何してんだよ、私」
………。
「夏乃?起きてる?」
ガラガラと扉が開く音、蒼君の声が聞こえる。
「蒼、君?」












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。