第22話

怖い、
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2022/01/29 02:54 更新
気がつけば保健室のベッドで眠っていて。

呼吸も落ち着いている。

何もなかったかのように。

無機質な天井を見つめる。



「今回は、…」


今回は前回よりも鮮明だった。

毎回思い出すたびに鮮明になっていく過去、一体私は何でこんなにピアノを恐れるようになったんだっけ?



思い出そうとすれば怖くて、

思い出せないのは逆に不安で、



ただ、蒼君の音は嫌いじゃなかった。でも…



「でも、蒼君の音を聞けば聞くほど苦しい過去しか見えない」


蒼君は上手だ、ただ、私と違う。まるで…



「楽譜なんて、存在していないかみたい…」

急に視界がぼやけて、目の周りが熱くなる。

こめかみのあたりを伝って涙は耳を撫でる。

「うっ、うぅ…うぁ、うぁああ…」


両手を目に当て、力なく溢れる涙を無意識に拭い続ける。

拭っても拭っても、絶対に止まらない涙を、ずっとずっと拭い続ける。

ずっと、ずっと、この過去から解き放されない限りきっと、きっと止まることなどない涙を。


こんなに鮮明に死の予感を肌に感じて、


泣かない人などいるだろうか?



死ぬのが怖い。とてつもなく怖い、怖い。




ふと、涙を拭う手を止める。

右手首に目をやる、


そこにはくっきりと赤い線があった、

毎日毎日現実逃避をしたくて切り続けた痕。日に日に増えていく痕。


私、別に、…




「何してんだよ、私」


………。






「夏乃?起きてる?」


ガラガラと扉が開く音、蒼君の声が聞こえる。

「蒼、君?」

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