一緒に撮り始めたら、初対面だって事なんて関係なかった。
彼は明日音といい、写真を撮ることが好きだと言っていた。そして、ひょんなことからこの海に来たこと、気に入ってしまって帰りたくないと思っていることを教えてくれた。
都会だとあるはずの喧騒が無いというのが彼のお気に入りポイントだそうだ。
でも、僕にとってここは静かすぎる。時間が過ぎていく感覚が遅いと思う。たしかに、四季で山の方の色が変わるのは面白いけど、いつも大体同じ感じになるんだ。
話し込んでいると、日が傾いていた。
そして、明日音はそろそろ帰ると準備を始めた。
会話を伸ばしたところで、明日音が帰ってしまうのは変わらないのに少し寂しく感じてしまう。
彼のいる街の様子をもっと知りたい。明日になってしまうのがもどかしい。
どうしたって…
冗談めかして明日音は言うけど、図星をつかれてしまった。
恥ずかしくて返事を躊躇っていると、明日音の表情も少し恥ずかしそうに頬を染めていた。
…もしかしたら、夕日のせいかもしれないけど。
少しでも、楽しかったことを伝えなきゃだと思っているのに、それに相応しい言葉が出てこない。
この一言に頑張って気持ちを込めた。
また。そういって明日音は潮風が吹くようにスッと消えてしまった。
どんなふうに帰るのか想像がつかなかったから、だいぶ驚いた。そのあと、少しだけ岩陰とかに隠れていないか明日音を探したのは彼には絶対に内緒だ。
僕は、勉強をするために来た時と同じように自転車で帰っていく。
防波堤には潮風が優しく吹いていた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!