竜平side
いつものように、少し気だるそうで塩対応だけどまあ彼女には甘い、みたいな彼氏像を演じ続ける帰り道。…最近思う、正直これは性に合わない。
最初の口実…、ファンの子から猛烈なアプローチを受けていて、その子を誤魔化すためにニセモノの彼女がいるという話。あれは、半分本当で半分嘘だった。…ファンの子からのアプローチは実際あったけど、そこまで迷惑しているというわけでもなかったから。
じゃあなんで、あなたの下の名前にあんなことを持ち掛けたかといえば。それは、彼女が元カレから何度も復縁を求められて、困っているのを知っていたから。単純に助けたいと思ったのと…、あと、実を言えば彼女がずっと好きだという潜在意識もあった。
だから、今の、こうやって一緒に帰ったり勉強会をしたりといったカレカノ的なそれは理想的だった。でも最近、もっともっと欲張りな俺が顔を出し始めて。気づけば、今の偽りのままでは、…心の距離を保ったままでは、居られなくなってきた。
ほら、こうやって、ふとしたときに相手に気を使わせてはいけないというブレーキがかかって、お互いの心は距離をとる。
でも、それをずっと打開できていないままなのもまた事実だった。
……歩いていれば、どれほど願っても、目的地には到着してしまう。
その溌溂とした声に合わせて、そっと遠慮しがちに握られていた手が離れる。白くて、綺麗で、そして温かいその指が、俺自身のそれから離れたとき、無性に、もう一度その手を取りたい気分になった。
でも、そもそも逃げて付き合ってもらったような男にそんな勇気があるはずがなくて。また今日も、その手を追えないのだろう。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。