悲しそうに笑った彼に
私は何て言葉をかけていいかわからなかった。
私、とんでもない約束を…
幼かった私には責任感なんてこれっぽっちもなくって、ただみんなが楽しければそれでいいと思っていた。
彼は私の背に手を回し、困ったように見つめてくる。
ギラリと光る鋭い目は気を抜くと吸い込まれそうだ。
なぜかムキになって叫んでしまった。
きっと自分でも不安だから
こうやって口に出して言い聞かせてる。
風助くんは唇を噛み締めて、悔しそうにうつむいた。
でもそれも一瞬のこと
次の瞬間には痛いほど抱きしめられてーー
彼はボソリと呟いた。
そして突然、彼のスケベアーが大声をあげる。
カッと眩い光に目を閉じた。
それと同時に頭の中がぼーっと霞がかっていく。
あ……れ? どうして……何も考えられない…
彼のギラつく瞳の中に、混乱する私が映っている。
耳元で囁かれるハスキーボイスは甘い響きを纏う。
誰か大切な人の顔が思い出せなくなっていく。
忘れちゃいけないのに……
なのに、どんどんこぼれ落ちていく。
きっと、絶対に忘れちゃいけない大好きな人……。
耳をくすぐる彼の言葉が、頭の中にこびりつく。
なぜか泣きそうな顔でそう言って
彼は私のおでこに優しくキスを落とす。
伏せたまつ毛の影、むせかえる程のフェロモン…
そうか、私にはスケベで素敵な彼がいたんだ。
たらりと鼻血が垂れた。
イルミネーションでキラキラと煌くクリスマス。
駅前の待ち合わせスポットで、私は彼を待っていた。
冷える指先をこすりながら
電光掲示板に映る下着メーカーのCMを眺めていた。
男性下着を着たモデルに、どこか見覚えがある気がして目が釘付けになってしまう。
ツンと鼻血の気配がして、思わず鼻をつまんだ。
スケベアーたちも騒ぎはじめる。
スケベアーたちはここ最近
「ユサ」という人のことを必死で伝えてくる。
でも私にはその人が誰なのかさっぱりわからない。
風助くんがスケベアーたちをデコピンで追い払った。
そして私の手をぎゅっと握って、彼のコートのポケットに入れる。
じんわりと温かい熱で、指先がじんじんする。
それに彼の香水の匂いに溺れそう。
グイッと腕を引かれ
まるでキスされそうな距離で彼は言った。
愛おしそうに私を見つめる彼の目。
まるで肉食獣のその瞳、ダダ漏れのフェロモンにビリビリと身体が痺れた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!