天国ではスケベアーたちと心美の両親が秘密の会話。
それは心美が眠った後、毎日行われていた。
そんな会話が天国で繰り広げられているとも知らず
私は遊佐くんの腕の中で目を覚ました。
うるさかった吹雪の音がやみ
しんと静まり返る冬の朝。
差し込んだ日差しが彼の顔にかかって
長いまつげの影をおとす。
かっこよくて愛しくて大好きな私の遊佐くん。
堪えきれない愛しさがむくむくと湧き上がり
身を乗り出して彼の頬にキスをする。
急に目を開けた彼に驚いて飛び起きると、
楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
恥ずかしくて顔を覆うとぎゅっと抱きしめられた。
腕の中で彼を見上げると嬉しそうに微笑んでいる。
やっぱりドSだ。
そうやっていつもからかってくるくせに
キスはいつだって優しい。
しばらく抱き合っていると
ドンドコとなにか太鼓が聞こえてきて……。
騒がしい声はスケベアーたち。
身支度をする彼をちらりと見ると
彼もまたこちらを見ていた。
ことの重大さに今更気づいてあたふたしていると、
ドゴッという音とともに勢いよく小屋の扉が開いた。
レスキュー隊員の方たちが私達を取り囲む。
そして後ろからは
冷徹でお馴染みの清井先生がお出ましだ。
近づいてきた先生にとっさに頭を下げる。
ぽんと頭に置かれたのは優しい手だった。
相変わらず皮手袋できっちりと防御しているものの、なんだかぬくもりを感じる。
顔をあげると先生の目には黒い隈ができていて、
寝る間も惜しんで捜索してくれていたのだと知った。
そしてほっと息をついた後
私達2人を見てまた冷ややかな表情で笑う。
私達は素直にうなずいた。
医者の診断を受けて旅館に戻った私達を
待っていたのは、親友のさっちょんとヒカルくん。
涙目のさっちょんが私に飛びついてきた。
ひねった足首が少し痛いけど
それよりも心配させてしまったことに
心が痛くなった。
嬉しそうにこっそりと耳打ちしてきたさっちょんに、
自然と笑顔が溢れる。
後ろから突然謝ってきたのは
隣のクラスの女子たちだった。
ギロリと遊佐くんに睨まれた2人は
ビクリと身体を震わせて
あからさまに遊佐くんに怯えている。
ドSの遊佐くんが怒ったら怖いよね。
まぁ深く聞かないようにしよう。
そう言うと2人はボロボロと涙を流し泣き出した。
遊佐くんは相変わらず2人を睨んでいるけど……。
こうして私達は無事に修学旅行を終えた。
スケベも生徒指導も遭難も色濃い修学旅行だったけど、また遊佐くんとの絆が深まった。
今日からまた学校生活が始まる。
でもこれから先、
どんなことが待ち受けていても
きっと遊佐くんとなら乗り越えていける。
私がスケベアーやリセイウチから卒業するのは
また少し先のお話。
おわり
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!