あれから、朝凪は来なかった。
それでも私は今日も学校に行く。
あいつみたいに逃げない。私は。
もう、おはようと言ってくれる人は居ない。
……いや、元から居なかったのか。
あいつは空の笑顔を私に振り撒いてただけ。
キシモト、ヒカリ。憎い。
みーちゃん、朝凪のことか。
あいつならもう来ない。
岸本と朝凪は仲が良かった。けれど、私は、
そう答える。すると態度が一変する。
私がつまらない反応をするのが面白くないのだろう。
こいつは私の苦しむ顔を見たがっている。
いわゆる虐めみたいなもの。
そう言って自分の席に戻る岸本。
私は教科書を取るためにロッカーへ向かう。
油断してはいけなかったのに、油断した。
ロッカーの取手の裏に画鋲があった。
今日は誰だろう。
上履きや椅子に画鋲が置いてあることはあった。
でも、こんな巧妙な手口は初めてだったから、油断した。
岸本のその声と同時に、
クラス中から笑いが巻き起こる。
こいつらは朝凪が居ないと調子に乗る。
私が朝凪と仲が良かったから。
あいつは人気者だったから、
クラスメイトたちは朝凪にバレないように
いかに私を苦しめられるかで競っていた。
どうやら今日は岸本が画鋲を仕込んだらしい。
岸本は虐めの主犯格みたいなもの。
私に味方は、居ない。
うざったい。憎い。
それでも無視をする。
関わるだけ無駄だから。
泣く私を見たらエスカレートするから。
あいつらにとって面白くない反応をする。
自分の感情にはなるべく目を伏せる。
が、辛いものは辛い。
私も感情が無いわけではない。
こいつらは何が楽しくて虐めをしているのだろうか。
なんで元々虐めの標的にする予定だった奴と
あんなに仲良く出来るのだろうか。
朝凪、あいつがあのまま虐められていれば良かったのに。
私が止めてしまったからターゲットが変わったんだ。
助けてやったのに、あいつは気付いていない。
……そんなことはどうでも良いけど。
もうあいつとは親友じゃない、いや、親友じゃなかった。
適当に受け流して今日も1日を終える。
帰るために階段を下りていたとき。
階段から落とされた。今日は度が過ぎている。
それでも無言を貫いて帰る。
痛い。痛い。痛い。痛い。
私に痛覚が無いとでも思っているのだろうか。
そう考えていると、家に着いた。
返事は、無い。
それだけ残して立ち去る母。
返事をくれるわけでも、罵るわけでもない。
ただ居ないものとして扱われる。
私は、虐めのことが親に言えなくて辛いんじゃない。
親が何も聞いてくれないから嫌なんだ。
成績をわざと下げてみた。
友達と喧嘩してみた。問題を起こしてみた。
それでも何も言わない。
だけど、酒に酔っているときだけは、
私に興味を持ってくれて、
『お前、もっと酒持ってこい』と1言。
それだけでも私は良かった。
普通が分からないから、これが幸せだと思ってた。
家事は私がほぼやっているが、
ご飯はしっかり出してくれる。
だから、ちゃんと親としての責務は全うしてくれている。
久しぶりに声を出した母は、食器棚にぶつかりながら
寝室へ向かった。
食器が落ちる音がする。
それでも母は気にせず寝室へ向かった。
私もやることをやって、部屋に行った。
…妹が泣く音がする。
まだ幼い妹は、親に教育されてこなかったから、
私に当たるようになっていて、
私は学校でも家でも痣を作っては痛みを堪えていた。
そんな私の弱さにつけ込んできたのが
朝凪。あいつ、憎い。逃げた。
あいつのせい。おかしくなった。
なんであいつが鬱なの。なんで逃げたの。
なんで不登校になったの?ねぇ。教えて。
交換先 是非お願い致します…

















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!