仁俊 side
あなたがまだ仁俊哥なら戻れる
そう言った瞬間周りの景色が変わり、駅のホームへ戻った。
ホームにはきさらぎ駅と書かれている。
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あなたは泣いてた。
さっき泣き止んでたのに、また、。
きっと自分の意思を信じてくれない俺が嫌になったんだ。
意地でもあなたを生かそうとするから。
俺がその言葉に唖然としているうちに、
ちゅっ
俺とあなたの唇が触れた。
俺だって…ファーストキスだよ
名残惜しく、唇が離れる。
今度は俺からあなたの唇に触れた。
優しいキスじゃなくて深い方。
唇を離すと、もう一度ぎゅっとあなたを抱きしめた。
それでも俺はあなたをあの世界に返すつもりだから。
あなたの言葉を合図かのようにホームで電車のドアが閉まることを知らせる警告音が鳴り始める。
ドンッ
俺は思わずあなたに押されて電車の中へ乗り込んでしまった。
と、同時にドアが閉まる。
ダメだっ、それだけは……あなたがあの世界に居なきゃ…
電車のドアに手を当てるとあなたも外からドアに手を当てた。
初めて彼女から聞いた好意。
嬉しいけれど今はもうそんな余裕はない。
と、気づいた。
あなたの手が少しずつキラキラと雲のように消えていってしまっていることに。
泣きながらも笑う彼女の綺麗な顔に俺は決心した。
電車が動く。
あなたの温もりが消える。
あぁ、俺は………っ…守れなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!