……とは言うものの、そう思い始めてからは、なぜか堀くんになかなか会えない。
忙しいのかなんなのか、学校に来ているかどうかさえ怪しいくらい。
ぼーっとしているとあなたにそう声をかけられた。
ダメダメ、しっかりしなきゃ。
暴走族の用事で忙しいとかかな?
なんにしろ、体調が悪いとかじゃなくてよかった。
あなたの声に、慌ててそっちを見ると。
女の子と二人で歩いている堀くん。
あの方向、中庭にでも行くのかな?
もしかして告白だったりする……?
はっとしてあなたに向き直る。
え?
あなたの真剣な眼差し。
なんだか背中を押されているような、そんな気がした。
う、嘘……。
そう言ったあなたに「ありがとう」と言って駆け出す。
気持ちに気づいてしまった今、堀くんを他の女の子に取られたくない。
せめてキッパリ振られてからじゃないと、きっと一生この気持ちを抱えたままだ。
中庭に続いている人気のない廊下を渡っていると。
私に呼びかけたのは大好きな声ではなく……。
私が振った、五十嵐先輩。
何しろ時間がないし、こうしている間にも、あの子が告白して、堀くんが……。
なっ……。
通ろうとしても、先輩はまるでバスケでもしてるみたいに通せんぼしてくる。
すごく嫌なのに、誰かに助けを求めることもできない。
若干キレ気味でそう言うと、先輩はニヤリと笑う。
……はい?
何それ……。
……わけわかんない。
自分の名誉のために、私のファーストキスを無駄にしろって言うの?
そうしないと、堀くんの所には行かせないって?
卑怯な言い方に唇を噛んでいると。
ぐいっ……!
後ろから誰かに腕を強い力で引かれて、バランスを崩す。
倒れるっ……!そう思ってぎゅっと目をつむる。
__ポスッ……。
あれ?痛く、ない……?
何かに包まれたような感触にそっと目を開けると。
いつもの穏やかさはなく、ギンっと光るような目で先輩を睨みつける堀くん。
先輩がそう言って私を顎でしゃくる。
えっ?どういうこと?
そう言って、わざと挑発的な態度を取り続ける堀くん。
っ……。
堀くんのその声に、私と先輩の肩がびくりと揺れた。
先輩はそう言うと殴りかかってきて、堀くんはそれをいともたやすく避けた。
堀くんは私の肩を抱いたままそう言って歩き出す。
と、思いきや。
思いっきり先輩の足を引っ掛けた。
なんというか……。
普段穏やかな人を怒らせると大変なことになるって、本当だったんだな……。
何も話さないまま、堀くんに背中を押されて中庭につく。
そっと背中を離されると、一気に温もりがなくなって少し寒くなるくらいに感じた。
な、なんかまだちょっと怒ってるうな……。
あっ、しまった……!
ま、まずい、パニック……!!
もっと考えながら、きちんと喋りたいのに……!
頭の中がこんがらがってごちゃ混ぜになっていると。
冷静な声が聞こえてはっとする。
そうだ。私はここに、想いを伝えに来たんだ。
次の言葉は落ち着いて響いた。
1度深呼吸をしてから、堀くんを真っ直ぐ見つめる。
初めて口にした言葉は、心の中でジーンといつまでもどこか体が温まるような、不思議な感じ。
気持ちは伝えられた。
あとは返事を聞くだけ。
堀くんの気持ちを知りたい。
そう思って、ゆっくり顔を上げると、
えっ?
戸惑った目を堀くんに向けると、堀くんも困ったような目を向けた。
フッと、大好きな微笑みを浮かべながらそう言われて、なんだかもう天にも登りそうな気分になる。
幸せな気持ちが胸から溢れでて、涙が出てしまいそう。
そっと私を抱き寄せてくれるその手は、とても優しくて。
つい、もう一度そう伝えたくなった。
だって、こんなに幸せな瞬間は人生にそう何度も無いはずだから。
今はこうして抱き合って、幸せを胸いっぱいに感じていたい。
それから恋人同士になって、あなたや川村くんにも報告して。
きっとこれからも、どんどん堀くんが好きになっていくんだと思う。
ぎこちなくそう言った私にそっと微笑んでくれる夏喜?
いつまでも幸せでいられますように。
そんな願いをこめて、ふたりでそっとキスを交わした。
〜美樹と夏喜〜
Fin.
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。