第59話

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2021/02/04 09:21
……とは言うものの、そう思い始めてからは、なぜか堀くんになかなか会えない。



忙しいのかなんなのか、学校に来ているかどうかさえ怪しいくらい。
白濱(なまえ)
白濱あなた
美樹?どうしたの?
ぼーっとしているとあなたにそう声をかけられた。



ダメダメ、しっかりしなきゃ。
佐藤美樹
佐藤美樹
ううん、なんでも。あなた、最近堀くんのこと見かける?
白濱(なまえ)
白濱あなた
夏喜くん?うん、たまり場には毎日来てるよ
佐藤美樹
佐藤美樹
そっか……
暴走族の用事で忙しいとかかな?



なんにしろ、体調が悪いとかじゃなくてよかった。
白濱(なまえ)
白濱あなた
……あ、夏喜くんだ
佐藤美樹
佐藤美樹
えっ
あなたの声に、慌ててそっちを見ると。
佐藤美樹
佐藤美樹
っ……
女の子と二人で歩いている堀くん。



あの方向、中庭にでも行くのかな?



もしかして告白だったりする……?
白濱(なまえ)
白濱あなた
……美樹
はっとしてあなたに向き直る。
佐藤美樹
佐藤美樹
な、なに?
白濱(なまえ)
白濱あなた
行かないの?
え?
白濱(なまえ)
白濱あなた
あれ絶対告白だよ。今行かないと、後悔するかもしれないよ
あなたの真剣な眼差し。



なんだか背中を押されているような、そんな気がした。
佐藤美樹
佐藤美樹
……バレてたんだ
白濱(なまえ)
白濱あなた
美樹って結構わかりやすいよ。いつも目で追ってるし、顔も真っ赤になってるし
う、嘘……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
まあとにかく、行ってらっしゃい!
そう言ったあなたに「ありがとう」と言って駆け出す。



気持ちに気づいてしまった今、堀くんを他の女の子に取られたくない。



せめてキッパリ振られてからじゃないと、きっと一生この気持ちを抱えたままだ。



中庭に続いている人気のない廊下を渡っていると。
五十嵐亮太
あっれー、佐藤だ
私に呼びかけたのは大好きな声ではなく……。
佐藤美樹
佐藤美樹
先輩……
私が振った、五十嵐先輩。
五十嵐亮太
どうしたんだよ?そんなに急いで
佐藤美樹
佐藤美樹
先輩には関係ないですから、どいてください
何しろ時間がないし、こうしている間にも、あの子が告白して、堀くんが……。
五十嵐亮太
えー、やだ
なっ……。



通ろうとしても、先輩はまるでバスケでもしてるみたいに通せんぼしてくる。



すごく嫌なのに、誰かに助けを求めることもできない。
佐藤美樹
佐藤美樹
お願いですから、通してくださいっ
若干キレ気味でそう言うと、先輩はニヤリと笑う。
五十嵐亮太
じゃ、キスしてくれたら通そっかな
……はい?
五十嵐亮太
あの後さー、佐藤を落とせなかったっつってみんなにいじられてんの。けどキスのひとつでもされたらかっこつくだろ?
何それ……。
五十嵐亮太
ほら、早くしろよ。じゃないと通さねぇけど。なんか急いでんだろ?
……わけわかんない。



自分の名誉のために、私のファーストキスを無駄にしろって言うの?



そうしないと、堀くんの所には行かせないって?



卑怯な言い方に唇を噛んでいると。



ぐいっ……!
佐藤美樹
佐藤美樹
わっ……!?
後ろから誰かに腕を強い力で引かれて、バランスを崩す。



倒れるっ……!そう思ってぎゅっと目をつむる。



__ポスッ……。



あれ?痛く、ない……?



何かに包まれたような感触にそっと目を開けると。
佐藤美樹
佐藤美樹
ほ、堀くんっ……
いつもの穏やかさはなく、ギンっと光るような目で先輩を睨みつける堀くん。
五十嵐亮太
……またお前かよ。お前さ、こいつのなんなの?
先輩がそう言って私を顎でしゃくる。
堀夏喜
堀夏喜
俺の彼女を、こいつ呼ばわりしないでもらえます?
えっ?どういうこと?
五十嵐亮太
っ……なに、お前ら付き合ってんの?
堀夏喜
堀夏喜
だったら文句でも?
そう言って、わざと挑発的な態度を取り続ける堀くん。
五十嵐亮太
べつに、趣味わりぃなーと
っ……。
堀夏喜
堀夏喜
……はあ?
堀くんのその声に、私と先輩の肩がびくりと揺れた。
堀夏喜
堀夏喜
それはあんたの方でしょ。うわべしか見なかったような野郎になにがわかるんですか
五十嵐亮太
っ……テメェっ……!
先輩はそう言うと殴りかかってきて、堀くんはそれをいともたやすく避けた。
堀夏喜
堀夏喜
停学にはなりたくないので、これで失礼しますね
堀くんは私の肩を抱いたままそう言って歩き出す。



と、思いきや。
五十嵐亮太
うわっ!
堀夏喜
堀夏喜
あ、すみません。足が滑って
思いっきり先輩の足を引っ掛けた。



なんというか……。



普段穏やかな人を怒らせると大変なことになるって、本当だったんだな……。



何も話さないまま、堀くんに背中を押されて中庭につく。



そっと背中を離されると、一気に温もりがなくなって少し寒くなるくらいに感じた。
堀夏喜
堀夏喜
……なんであの先輩といたの?
な、なんかまだちょっと怒ってるうな……。
佐藤美樹
佐藤美樹
中庭に行こうとしたら偶然会って……
堀夏喜
堀夏喜
中庭?
あっ、しまった……!
佐藤美樹
佐藤美樹
え、えっと、あ、堀くんが女の子と歩いていくのが見えて、それでっ……
ま、まずい、パニック……!!



もっと考えながら、きちんと喋りたいのに……!



頭の中がこんがらがってごちゃ混ぜになっていると。
堀夏喜
堀夏喜
俺を追いかけてきたってこと?
冷静な声が聞こえてはっとする。



そうだ。私はここに、想いを伝えに来たんだ。
佐藤美樹
佐藤美樹
……そうだよ
次の言葉は落ち着いて響いた。
佐藤美樹
佐藤美樹
堀くんが誰かの告白を受けるって思ったら、いてもたってもいられなかったの。だから、私の気持ちを伝えようって……
1度深呼吸をしてから、堀くんを真っ直ぐ見つめる。
佐藤美樹
佐藤美樹
私、堀くんが好きです
初めて口にした言葉は、心の中でジーンといつまでもどこか体が温まるような、不思議な感じ。



気持ちは伝えられた。



あとは返事を聞くだけ。



堀くんの気持ちを知りたい。



そう思って、ゆっくり顔を上げると、
佐藤美樹
佐藤美樹
……えっ、真っ赤……
堀夏喜
堀夏喜
……そりゃ真っ赤にもなるでしょ。
好きな子に告白されるとか……
えっ?



戸惑った目を堀くんに向けると、堀くんも困ったような目を向けた。
堀夏喜
堀夏喜
俺から告白したかったんだけどな。
……俺も好きだよ
フッと、大好きな微笑みを浮かべながらそう言われて、なんだかもう天にも登りそうな気分になる。



幸せな気持ちが胸から溢れでて、涙が出てしまいそう。
佐藤美樹
佐藤美樹
っ……嬉しい
堀夏喜
堀夏喜
ん、俺も
そっと私を抱き寄せてくれるその手は、とても優しくて。
佐藤美樹
佐藤美樹
好きですっ……
つい、もう一度そう伝えたくなった。



だって、こんなに幸せな瞬間は人生にそう何度も無いはずだから。



今はこうして抱き合って、幸せを胸いっぱいに感じていたい。






それから恋人同士になって、あなたや川村くんにも報告して。



きっとこれからも、どんどん堀くんが好きになっていくんだと思う。
堀夏喜
堀夏喜
あのさ、そろそろ名前で呼んでくれないかな
佐藤美樹
佐藤美樹
えっ……な、夏喜?
堀夏喜
堀夏喜
うん。美樹、好きだよ
佐藤美樹
佐藤美樹
わ、私も好きだよ、夏喜
ぎこちなくそう言った私にそっと微笑んでくれる夏喜?



いつまでも幸せでいられますように。



そんな願いをこめて、ふたりでそっとキスを交わした。










〜美樹と夏喜〜

Fin.

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