もうすぐ体育祭だ。それに向けて、実行委員会が活動を開始した。が、不思議な雰囲気が漂っていた。一年生で、何もかも初めての私にとってそれはものすごく居心地が悪かった。委員長は三年生の成績優秀者だと噂に聞く。すべて合理的な人物だった。
「まずは今年の体育祭のモットーは、安全に楽しく盛り上がる体育祭です。今年も例年通りグラウンドで開催します。異議はありませんね」
「いいえ…」
そっと手が上がる。ここに異議があるのはどういう意味だろう。
「グラウンドの砂埃が目に入ってしまうので危険です。グラウンドでの開催は中止し、体育館で開催すべきだと考えます」
「そうですか。この意見に反対する方はいらっしゃいますか」
ここでもまた別の人から手が上がる。きっと、グラウンドでやりたいというものだろうか。
「体育館では、十分な空間がありません。生徒を待機させる場所もありません。一年生の徒競走のためのスペースもありません。開催場所は、グラウンドにすべきです」
二つの意見が対立してしまう。グラウンドでやればいいのに、と考えはするのだが、私は学年で1位、2位を争う気の弱さと陰の空気の持ち主のため、手を上げることはできなかった。なぜ体育祭実行委員になったのかといえば、誰もやらないからというよくある理由のもとに、気の弱さと耳の遠さによるいじられキャラを買われて押し付けられたからだ。
「グラウンドで!」
「体育館で!」
ここで合理主義者が一声上げた。
「どちらの意見も一理あります。そのため、外部の十分な空間のある体育館を借りられるか、先生に協議します」
「それなら意義ありません」
「同じく」
委員長の言い分はもっともで、素早く論争を落ち着かせることができた。
「では続いて競技についてです。今年は例年通り、競技種目として一年生に徒競走と玉入れ、二年生に綱引きと障
害物競走、三年生にリレーと騎馬戦を割り当て、演技種目としては一年生と三年生にダンスを、二年生に組体操を割り当てますが、異議はありますか」
さすがにないであろうと思っていた異議がまたしても出てきた。手の数は、1本ならまだいいのだが、6本もある。今年の話し合いはここまでイレギュラーな事態になるのか。嫌な予感すらし始める。
「騎馬戦と組体操は落ちてしまったとき危険です。私の知り合いに、組体操で失敗してけがをした人がいます。この学校でも、同じ失敗をするわけにはいきません」
「障害物競走は、障害物による事故が予測されます。例えば、網で窒息したり、コーンや棒による骨折や打撲、捻挫をしたり…。今年は開催を避けるべきです」
「走る競技は、隣の人とぶつかることによる事故が多発すると考えられます。徒競走、リレーは中止したほうがよいのではありませんか」
「玉入れは、他の人が投げた玉が当たったり、カゴが倒れたりする恐れがあります」
「綱引きは、綱で首が絞まってしまうのではないでしょうか」
「ダンスは、みんな調子に乗ってしまうので危険ではありませんか。苦手な人が特段目立ってしまうので、可哀想ですよ」
途中から納得のいかない理由が出てきて、もはや妄想だろうという域のものばかりになった。しかし、この意見に反対するものは現れなかった。しかも委員長はその意見にしっかり耳を傾けて、ご丁寧にメモまでしていた。私はもちろん体育祭は楽しみたいので、綱引きやダンスをその理由で中止するのは避けたいが、手を上げる勇気は存在していなかった。
「では、すべての種目を中止するということでよろしいでしょうか。異議のある方は挙手を」
(さすがに誰か手を上げるだろう)
そう高を括って周りを見ると、誰一人手を挙げていなかった。
(そこは異議ないのかよ!!)
ツッコミを入れたかったが、心の中だけにとどまってしまった。結果、今日の委員会はそれっきりで終わってしまった。これは、体育祭を中止するだろう、そう考えていた。
後日配られたお知らせのプリントは、今年の体育祭についてだった。
「体育祭は予定通り開催いたします」
何だ、と拍子抜けしたが、余計な心配はなくなって安心していた。
が、迎えた体育祭当日。耳を疑うアナウンスが流れたのだ。委員長の声だ。
「体育祭不実行委員会よりお知らせします。今年度は、体育祭実行委員会に負けてしまったために体育祭を不実行することはできませんでした。真面目さ際立つものから、適当感満載の様々な理由をもとに、体育祭を止めることに尽力いたしましたが、叶うことはありませんでした。体育祭嫌いの皆様、大変申し訳ございません。今回出された理由はすべて、このあと発表いたします。一番素晴らしいと思った理由に一票投じていただくと、発案者の組に一点が加算されますので、ぜひ投票を」
体育祭実行委員会だと思っていたが、どうやら私が入った委員会は全く別物だったらしい。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。