学生のうちに何度も聞くチャイムが鳴り開いていた教科書とノートを片付ける。ペンをペンケースに入れていると前の席にどかっと座る薫ちゃんがスマホの画面を私に見せる。
「ことはが新作のサンドウィッチ食べに来て欲しいんだって」
見せられた画面にはチャットアプリで「サンドウィッチの新作できたから近いうちにあなたと一緒に来て欲しい」とメッセージが送られてきていた。喫茶店の新作がすぐに食べられるなんて滅多に無いことだからちょっと楽しみ。どんなのだろうと薫ちゃんとサンドウィッチの具を想像を膨らませていて、クラスの子が傍に来ていたことに気づかなかった。
「っあの、あなたの名字さん!」
『わっ!』
「さっきの授業で、、ここってどう解いたらいいか、教えて欲しくて、、」
『ああ、ええっとね…』
さっきのノートを見返しながら教えるとなるほどっと理解したのか、自分が持っていたノートにメモしていた。そんな様子を薫ちゃんは無言で携帯片手に見つめていた。
「ありがとう!あなたの名字さん、もし良かったらなんだけどまた聞くかもしれないから連絡先交換しない?」
『うんいいよー』
チャットアプリを開いて自分のQRコードを差し出して読み込んでもらう。すると画面にはクラスの子のプロフィールが開かれて追加のボタンを押す。よろしくと可愛いクマのスタンプが送られてきたので無料で使えるスタンプを送っておいた。
名前分かりにくいから後で変えておこう。
ぺこりと軽く頭を下げて去っていくクラスの子にフラフラと手を振る。ごめんねと薫ちゃんに声をかけるとムスッとして机に頬杖を着く。
「…そんなぽんぽん連絡先交換して大丈夫なの?」
『なんで?』
「いや、あなたがいいならいいんだけどさ」
薫ちゃんの言っている意味がわからず首を傾げるといや、なんでもないとポトスの新作サンドウィッチの話に戻された。
全ての授業終わって各々部活動に励む生徒や図書室へ自主勉強しに行く生徒、家に帰って勉強なんて言ってアルバイトをしに行く生徒たち。
放課後に喫茶店に行って新作を食べに行くなんてJKを謳歌してるみたい。最近家に帰って勉強しかしてなかったから、喫茶店とかカフェに行く機会がなくてワクワクする。せっせと鞄に教科書を入れていると薫ちゃんが席まで迎えに来てくれた。
「あれ、晴風さんにあなたの名字さんじゃないすか!」
「あ、にれ君に蘇芳君だ」
「やあ、二人は学校の帰りかい?」
『う、うん。あれ、さ、桜君は一緒じゃないの?』
「ああ桜君はね、」
あそこっと指さす方を見るとシャッターが閉まっている店にもたれ掛かる喧嘩相手の胸ぐらを掴む桜君。
ポトスに向かう途中の商店街でこの前会った風鈴の子たちとばったり会った。丸秘と書かれたノートを片手にペンを握る楡井君とその様子を後ろで手を組みながら見守る蘇芳君。そして街に危害を加えていたらしき相手に制裁を下してきた桜君が合流する。喧嘩中に何かが掠ったような後が頬に残っていた。
『桜君、頬…』
「っ!??!!?」
桜君が急に顔を真っ赤にしてとんでもないスピードで後退りをする。口をガクガクさせて何か言ってるようだけど聞き取りずらくて、なんて言ってるか薫ちゃんや楡井君たちに聞こうと振り向いたら、蘇芳くん含む三人は目を見開いていた。
「あなたあんた、いつからそんな……」
『え、なに…?』
「…あなたの名字さん意外と大胆なんすね」
「無意識でやってるのが罪深いね」
「待って三人とも何の話してるの」
「さ、私らはポトス向かいましょ。蘇芳くんたちもポトス行くのよね?」
「うん。見回りの時間も終わったしこれから向かうところだよ。ことはちゃんが待ってるし早く行こうか」
「そうっすね、俺も腹減りました」
三人はスタスタと私らを置いてポトスへ向かっていった。どうしよう、桜君と二人。初めて会った日からまだ2回しか会ったことないのに、しかも男性が苦手な私が桜君と2人きりなんて何話せばいいかわかんない。いやそもそも話せるのか…?
と、とりあえず頬の傷が気になるから処置してあげよう。
『さ、桜君頬傷してる。ちょっと良く見せてくれない…?』
「っはぁ!?……痛くねえし放っておけば治る」
『バイ菌入って悪化したらよくないから、』
鞄のポケットからポーチを出して中に入っていた絆創膏を桜君に差し出すと、一瞬躊躇ったけどそろりとそれを受け取った。傷の位置を教えていないのにどこにあるか分かってるようでちゃんと貼れてるあたり、やっぱり痛かったんだ。何故か顔も赤くなってたけど。
「あいつらは?」
『に、にれ君たちは先にポトスに向かったよ。薫ちゃんも』
「っあいつら……」
私たちも行こう、と言いたいのになんだか恥ずかしくて言えない。前まで親以外の男性と話すとオドオドしてしまって会話にならなかったから、対面で一対一でちゃんと会話出来てるあたりは結構成長してると思う。まだ目を見て話せないけど桜君たちと関わっていく内に段々慣れていくのかな。
「……俺たち、も、行くか」
そう言ってポケットに手を突っ込んで歩き出す桜君に人一人分くらい間隔をあけて着いていく。正直まだポトスへ行く道が分からないので前を歩いてくれるのは有難い。ポトスに着くまで振り向いたり会話をすることは無かったけど、なんとなく、ちゃんと着いてきているか気にしてくれているようだった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。