ずっと心残りなんだ…
大事な父親に向かって、なんであんなことを…
俺の母は物心ついた頃に亡くなって
ずっと父親が面倒をみてくれてた
優しくて懐が広くて
仕事も、育児も、弱音一つ吐かない
そんな親父を心から尊敬していたけど
どうしても理解できないことがあった
父親は庭の手入れが大好きで
休みの日に庭に出て
花を植え、手入れし、
雑草を抜き、害虫を駆除
黙々と作業をした後は
と楽しそうに雑学を語る
父親の趣味を否定する気はないが
庭の手入れは
汚れるし、虫が気持ち悪い
数年前、庭の梅の木に蜂の巣ができて以来
と鬱陶しく感じていた
そしてある日俺の部屋に一番苦手な虫が入ってきた
散々騒ぎ立てた後
俺は父親に強く当たってしまった
父親はなにも言わず
寂しそうに笑った
翌日に体調を崩して救急車で運ばれた
しかも症状が深刻で当面入院とのこと
昨日までは元気だったのに
その声は明らかに弱っていた
八つ当たりのことも謝れないまま
俺は一人で暮らすことになった
父親のいない家はなんだか広く感じた
そしてなにより一番変わったのは庭だった
日が経つにつれて草は伸び雑草も増える
ちょうど夏ということもあって虫も増える始末
手入れをしないとこんなにも…
俺はそう思い罪滅ぼしに手入れでも?
とそんなことは俺にできるわけもなく
大学の勉強で手一杯なまま時が流れた
ある日
父親のお見舞いに行くと
俺は上手く言葉も運べずふいに
父親の部屋に入るのはいつぶりだろうか
懐かしさを感じながら書類の整理をしていると
古びたノートが目に入った
それは日記だった
几帳面な父親が庭の手入れの記録をつけていた
草花の名前や、肥料の分量、天気や虫の種類まで
部屋は散らかっているのに日記は丁寧だった
そんな中、ある日付のページで手が止まった
「今日、息子が生まれた」
「妻といっしょに選んだ梅の木の苗を、記念に植えた」
「この子の成長といっしょに大きくなってくれるといい」
「この木が大きくなった頃、どんな子に育ってるかな」
父親があのとき切ない顔をしていた意味がわかった
まさか家族全員が関わっている木だったなんて
俺を想って植えられた木
あの庭の、梅の木
気づけば俺は庭にでていた
軍手をはめる手がぎこちなくて
雑草を抜く手も不慣れだった
虫がでて声を上げるたびに情けなくなる
だけど、少しずつ荒れ果てた庭が整っていくのが
心地よかった
父親の退院の日
あの時の父親の顔
俺は一生忘れないだろう
父親の雑学について














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。