あの日、初めて投げ掛けられた『罵倒』に衝撃を受けた
いつもどおり、何気なく過ごしていた筈なのに
何故か、彼奴には気づかれていたらしい
唐突に始まった席替え
数合わせで、女の子と隣になったけど
その風貌は何時も私の周りを彷徨くのとは違う様だった
気づけば社長室のソファにいて
夕暮れの太陽が顔に掛かって目が痛い
…どうするのが、正解なんだろう
柄にもなく、自分の考えも纏まらない
例のパーティであんな騒動が起きた矢先
こんな”事態”になるなんて、予想もしてなかった
5年以上も前の話
…今更ぶり返されたもんだから
対応も出来ないし、…何より彼奴等のストレスになる
何年振りかに着る、レースのワンピースも
今となっては脱ぎたくて仕方がない
…『家から失踪した社長令嬢』とか
この会社の専属マネには不名誉以外の何物でもないのに
自分に伸し掛かる過去の選択が
嫌にでも脳内にチラついて頭が痛い
遥か高い天井に浮かび上がる
自分を見捨てた父の面影に毒を吐いて
同時に、『許嫁』とか馬鹿らしい彼奴にも嫌気がさす
何が許嫁だよ。弱小同士の癖に
行き場のない苛つきを抑えようとしたその時
無機質な着信音が、その一室に木霊する
スマホを覗き込むと、そこにはやはり彼奴の名前
…なんで、情報が此奴には筒抜けなんだろう←
キモ。カメラでも仕込まれてんのかな(濡れ衣)
あなたは、私に許嫁が居た事も知ってる
けど、『綺麗に破談』したと昔に言ってたから
その存在が出て来ている事には気づいていない
…言うべき?…かも分からない
やっぱり言えない
この家族を、壊すかもしれない
ようやくあなたが見つけた、『本当の家族』
壊したくない。何がなんでも守りたい
社畜でもいい
お前が、今の状況を望むなら
お嬢様の肩書きなんかゴミも同然
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。