第73話

恋愛結婚 2
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2026/06/03 08:56 更新





その夜、王宮の奥




最も静かで、最も権力の匂いが濃い執務室に
ぷりっつは呼び出された。





扉を開けた瞬間、重い空気が肌に絡みつく。

玉座には王がいた。





書類の山を背に


まるで最初からすべてを見透かしているような目で
こちらを見ている。





「来たか」

低い声だった。






「お呼びいただき、ありがとうございます」






ぷりっつは一切の揺らぎなく頭を下げる。


その所作は完璧で、隙がない。





だが、それが王の気に障る。





「相変わらずだな。お前は」





王は椅子から立ち上がることもなく、指先で机を軽く叩いた。







「優秀だ。忠実だ。実に……よくできた“道具”だ」





その言葉にも、ぷりっつは表情を変えない。








「お褒めいただき光栄です」



その反応が、さらに王の機嫌を悪くした。








「褒めてなどおらん」






沈黙が落ちる。

しばらくして、王はわざとらしく書類を一枚手に取った。







「婚姻会が近いな」






その言葉に、ぷりっつの指先がほんのわずかに動く。

それを、王は見逃さない。






「ほう。お前でも反応するのか」



「……王女様の重要な儀式ですので」







「王女様、か」






王は鼻で笑った。






「随分と便利な呼び方だな」






ぷりっつは何も言わない。

王は続ける。






「あなたはな、もう子どもではない。
 いずれこの国の“核”になる存在だ」




「承知しております」






「ならば理解しているはずだ。
 彼女の結婚が、どれほど重要かも」






その言葉は静かだが、鋭かった。

ぷりっつは一拍置いてから答える。






「はい」



「では質問だ」

王はゆっくりと肘をついた。






「お前は、そこに立つ資格があると思うか?」






空気が変わる。

冷たい刃が部屋の中に一本落ちたような感覚だった。



ぷりっつは、それでも視線を逸らさない。






「私は秘書です」
「婚姻候補ではありません」





「当然だ」






王は即答する。

そして、少しだけ笑った。





「それでもなお、あの子はお前を見ている」





その一言で、ぷりっつの呼吸がほんのわずかに浅くなる。

王は楽しそうだった。





「気づいていないとでも思っていたか?」


「……」





「あなたはわかりやすい子だ。昔からな」






王は椅子の背にもたれ、続けた。






「だからこそ、ルールを作った」






その言葉が落ちた瞬間、部屋の温度が変わる。

ぷりっつの目が、初めてわずかに細くなった。






「それは……王女様のためですか」





王は即座に笑った。



「違うな」






「“お前のため”でもある」







ぷりっつの瞳が揺れる。

王は淡々と続ける。







「お前は優秀すぎる。だが、それだけだ」

「感情を持てば、壊れる」

「壊れれば、あの子を守れない」







その言葉は、命令でもあり、呪いでもあった。

ぷりっつは静かに息を吐いた。






「……私は、王女様を守るためにここにいます」


「そうだろうな」






王は頷く。

そして、ゆっくりと言葉を落とした。






「ならば、答えは簡単だ」









「婚姻会には近づくな」







沈黙。

それは命令というより、警告に近かった。






王は立ち上がる。






ゆっくりとぷりっつの横を通り過ぎる瞬間、低く言った。







「お前が彼女を見る目は、秘書のそれではない」








その言葉に、ぷりっつの肩が一瞬だけ止まる。

王はそれを見て、満足そうに笑った。







「だが安心しろ」

「それを“許す世界”にはしていない」







扉が開き、王は出ていこうとする。

その背中に、ぷりっつは初めて声を出した。







「王は……王女様を、幸せにしたいのですか」








足が止まる。

王は振り返らないまま、短く答えた。








「違う」

「この国を、壊さないためだ」








そして、静かに扉が閉まった。









残された部屋に、ぷりっつだけが立っている。

沈黙の中で、彼は一度だけ目を伏せた。







——婚姻会。






その言葉が、胸の奥で重く沈む。

そしてもう一つ。




王の言葉。






「お前が彼女を見る目は、秘書のそれではない」







ぷりっつは、静かに拳を握った。

それでも声には出さない。






ただ一言だけ、心の中で落とす。







(私は……秘書です)






けれどその言葉は
もう自分自身にすら届いていなかった。









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