おでこのファーストキスが奪われてからというもの、私の心はモヤモヤ。
それは恋のドキドキとは別のもの。
拭きすぎたおでこをさすり、遊佐くんのポケットティッシュを眺める。
その後おじいちゃんの厳しい指南は朝まで続いた。
私は隙を見つけては遊佐くんを探した。
隠忍の術!!
心で唱え、サッと廊下窓のカーテンに隠れる。
バサッ
私はおでこを守りながら一目散に走った。
何という失態。敵に見つかってしまうとは。
でも、次こそは誰にも気付かれずに!
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私の努力は虚しく、遊佐くんに近づくチャンスはもう放課後だけとなった。
ターゲットは今、グラウンド横の木の下で本を読んでいる。
木陰の中、そよ風に吹かれる遊佐くんはいつにも増してアンニュイでセクシーだ。
部活中の野球部にも見つからないよう、茂みに同化するように隠れて近づく。
待って、この気配。
それは突然だった。
私めがけて豪速球で飛んでくる野球ボール。
迫り来るボール!! 既視感しかない!
ゴッ!
ボールは、私を抱き込んだ遊佐くんの頭に
ダイレクトヒットした。
体中の熱が一気に沸騰し、鼻血がこんにちはする。
瓶底メガネの奥に、ギラついた獣みたいな瞳。
遊佐くんとヒカル会長の間に妙な空気が流れる。
遊佐くんはそう言い残し、去っていった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。