8月末、東京遠征。
今回は音駒高校での練習だ。
いつも通り試合をぐるぐるやってから、各自自主練に移った。
黒尾「おーいあなた~」
木兎さんと並んで歩いてきた黒尾さんに、ビシッと手を上げた。
あなた「ごめん!今回は無理!!」
黒尾「え」
実は遠征に来る前、西谷先輩から自主練に付き合ってと言われたんだ。
ルンルン気分で西谷先輩の所に走って向かった。
黒尾𝓈𝒾𝒹𝑒.°
なんだよ……。
前まで自分の恋に消極的だった癖に、ちょっと会わない間に何があったんだ?
自主練終わりに晩飯に向かう途中、トイレに向かう後ろ姿が目に留まった。
確か、「西谷」……。
リベロだったよな。
あなたの惚れた男か……。
ちょっとした好奇心で、俺はそいつについて行くことにした。
黒尾「おーっす」
手を洗ってるそいつの隣に立って、俺も無意味に蛇口を捻った。
西谷「?……お疲れ様です」
急に話しかけてきた俺に怪訝そうな顔つきをして、ペコリと頭を下げる。
そのまま出ていこうとするので、思わず呼び止めた。
黒尾「あー……あのさ」
西谷「?はい……」
昼間、烏野と試合当たったときに見てたけど……。
あなたとこいつの間に、何かあったのは明白だった。
もしかして……。
黒尾「……単刀直入に聞くけど……あなたのことどう思ってんの?」
俺の問に、目を見開いてあからさまな同様を表したということは、きっと……。
西谷「……」
黒尾「好き、だったりすんの?」
追い討ちをかけるように繰り出した質問に、視線を落とす。
西谷「…………分かんねぇっす」
多分、嘘をつけない正確なんだろう。
正直で、素直で……だからあいつも、好きになったのか……?
でもその答えが、俺にとってはとても、腹立たしく感じられた。
黒尾「俺は、あいつが好きだ」
西谷「……え」
黒尾「他のどの女よりも大切で、守りてぇって思ってる」
あなたが、好きになったのかとか、そんなのこの際どうでも良い。
ただ、こいつのあなたに対する気持ちの薄さに、どうしようもない憤りを覚えたんだ。
黒尾「俺だけじゃない……分かってるだろうけど、あいつのこと本気で好きな奴って山程いるんだわ」
西谷「……知ってます」
そんな辛そうな顔しても、俺にとっては軽い気持ちであなたに近づいてるようにしか思えない。
黒尾「その程度の気持ちで、あいつに近づくなよ」
俺は、俺たちは、本気だ。
本気であいつに惚れて、振り向いてほしいって試行錯誤してるってのに。
先に知り合ってあいつの気持ち全部持ってって、その上自分の気持ちに「分からねぇ」なんて歯止めかけて……。
黒尾「本気であなたのこと考えられねぇんなら、いい加減解放してやれよ」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。