第11話

凍った木
51
2021/01/05 11:37
私のお父さんが生まれたとき、


木を植えたんだって。


その木はお父さんと共に大きく育って


大木になったの。


その木は川の近くにあって


お父さんやその友達の遊び場だったんだ。


木はそれを見守っていた。


そして私が生まれた。


それを喜ぶように


木には花が咲いた。


満開で、綺麗だった。


って、言ってた。





そして今日、お父さんが死んだ。


それを悲しむように


木は枯れ、


お父さんと同じように死んだ。






私は木のもとへ行った。


最後に挨拶でもしようかな、


なんてふと思ったから。


「今までありがとう。」


「おやすみ。」


そう言ったら涙が溢れて止まらなくなった。


苦しくて、息が出来なかった。


いつも温かく見守ってくれた木が


今日は凍ったように冷たく、静かで。


それが訳もわからず寂しかった。


すると目の前に、一匹の蛍が飛んできた。


前に一度お父さんと蛍を見に来たことがある。


その時は、もっとたくさん居た。


一匹の蛍はわたしの前をくるりと回って


空の彼方に飛んでいった。


「お父さん………」


私は無意識に呟いた。


一匹で空へ飛んでいった蛍が


お父さんの姿と重なった。


「最後に挨拶………?」


わたしの涙は収まっていた。


「お父さん、ありがとう。」


もう二度と会えないお父さんへ


「大好きだよ。」

プリ小説オーディオドラマ