第9話

触れたのは、たった一度きりの口づけ
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2025/09/25 22:26 更新
舞台を終えた七海さんは、
その夜、ひとときの静けさを求めて都内のホテルを取っていた。
七海ひろき
七海ひろき
おいで。
ベッドサイドに腰掛けた彼女が、そっと手を差し出す。
私は迷わず、その手を取った。
(なまえ)
あなた
……舞台の七海さんも素敵だったけど。
今こうして、私の手を握ってくれている七海さんが、一番好きです。
彼女の目が、少しだけ細くなる。
口元が、ほんのりと綻ぶ。
七海ひろき
七海ひろき
嬉しいこと、言ってくれるね。
……でもさ、恋人になったのに、まだしてなかったね、私たち。
(なまえ)
あなた
え?
そう言って、七海さんは私の手をそっと引いた。
ベッドに座ったまま、向かい合う形になる。
顔と顔が、近づいていく。
七海ひろき
七海ひろき
触れてもいい?
その言葉に、私は小さく頷いた。
(なまえ)
あなた
(ああ……やっと。やっと、この人に。)
ふわり、と髪を撫でる指先。
そのまま頬に添えられた大きな手のひらが、温かい。
そして、
優しく、深く、何も急がずに。
七海さんの唇が、私の唇に触れた。
ただ触れるだけの口づけなのに、
心臓の音が、世界中に響きそうだった。
呼吸さえも、奪われてく。
こんなにも静かなのに、こんなにも、甘い。
唇が離れた後も、七海さんは額をくっつけたまま目を閉じた。
七海ひろき
七海ひろき
……もっと早く、こうしてれば良かった。
(なまえ)
あなた
……でも、今が一番良かったです。
彼女は目を開け、少しだけいたずらっぽく笑った。
七海ひろき
七海ひろき
じゃあ、もう一回いい?
次のキスは、さっきよりも少しだけ深く。
ふたりの想いが、ちゃんと重なった瞬間だった。
灯りを落とした室内で、
ふたりは寄り添いながら、何度も静かに口づけを重ねた。
言葉よりも、呼吸よりも、確かに伝わる気持ちがあった。
七海ひろき
七海ひろき
あなたの下の名前がいてくれて、ほんとによかった。
(なまえ)
あなた
私も……七海さんに出会えて、よかった。
その夜、ふたりはまだ名前のない未来に、
そっと触れ始めていた。

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