舞台を終えた七海さんは、
その夜、ひとときの静けさを求めて都内のホテルを取っていた。
ベッドサイドに腰掛けた彼女が、そっと手を差し出す。
私は迷わず、その手を取った。
彼女の目が、少しだけ細くなる。
口元が、ほんのりと綻ぶ。
そう言って、七海さんは私の手をそっと引いた。
ベッドに座ったまま、向かい合う形になる。
顔と顔が、近づいていく。
その言葉に、私は小さく頷いた。
ふわり、と髪を撫でる指先。
そのまま頬に添えられた大きな手のひらが、温かい。
そして、
優しく、深く、何も急がずに。
七海さんの唇が、私の唇に触れた。
ただ触れるだけの口づけなのに、
心臓の音が、世界中に響きそうだった。
呼吸さえも、奪われてく。
こんなにも静かなのに、こんなにも、甘い。
唇が離れた後も、七海さんは額をくっつけたまま目を閉じた。
彼女は目を開け、少しだけいたずらっぽく笑った。
次のキスは、さっきよりも少しだけ深く。
ふたりの想いが、ちゃんと重なった瞬間だった。
灯りを落とした室内で、
ふたりは寄り添いながら、何度も静かに口づけを重ねた。
言葉よりも、呼吸よりも、確かに伝わる気持ちがあった。
その夜、ふたりはまだ名前のない未来に、
そっと触れ始めていた。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。