(67話)
掴めない。距離感が、全く。
記憶も。
何度も思い出そうとするけど靄がずっと掛かってる。
どうして?
だんだんと混乱していく頭を冷やそうと
深呼吸を3回、
スー,ハー,スー,ハー,スー,ハー,
と繰り返す。
どうやら、心操くんも私と同じで距離感が掴めない様子だ。
多分、記憶は飛んでない。
本当は、何も覚えていないのに、
覚えてる様にあしらう。
お互いに、1分程だろうか。
沈黙が続いたあと、口を開いたのは心操くんだった。
思いも寄らない言葉に戸惑いを隠し切れず、
と、やや気の抜けた返しをする。
あ…
そうだった。
嘘を吐いた。
知らないフリ。一番の安全策。
そういえば、最後にテレビを見たのっていつだっけ?
一人暮らしをしている私の部屋にはテレビはない。
どうせ見ないんだから、要らない。と買わなかった。
連合には……
確かあったけど、毒を調べたり受験勉強で、テレビを見る機会なんて無かったな…
不味い、
咄嗟に嘘を重ねるけれど、違和感が無いか心配になる。
少し、ほんの少しだけ。
心臓の鼓動が加速するのを感じた。
都合良く騙せて、
本当は悪い事なのに、安堵に胸を撫で下ろす。
相変わらず、私の声は少し怯えたまま。
そう言って手を振る心操くんに、
私も手を振り返す。
ようやく会話が終わり、疲れがどっと来る。
伸びをして、リュックを背負い、階段を駆け上がった。
私が驚いていると後ろから、
三奈と切島くんも出てきた。
ん?聞く?何を。
私の驚きの声が廊下に響いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。