しんと静まり返っている授業中の教室で、私は前に出て黒板にチョークで答えを書いていた。
チョークを置き、邪魔な髪を耳にかけて教壇を下りようとした時。
恥ずかしさは頂点まで達し、私は素早く席に戻った。
机の下で手を叩き、目を瞑って髪を梳くように汚れを落とす。
そして、その動作だけで、また思わぬイメージを周りに持たせていた。
ただでさえ前に出るのは苦手なのに、こんな風に目立ってしまうと疲れは倍増してしまう。
教科書の字はぼやけ、先生の声も子守歌のように聞こえる。
瞼は重くとじられ、私は眠りへと落ちていった。
前にも感じた羊がすり寄るような感触に、きっと彼だ、そう思い私はゆっくりと目を開ける。
望はまた机にあごをのせ、眠っている私の顔を覗き込んでいたようだ。
彼の友達の桜庭くんと鈴城さんも、私の様子を伺っている。
けど、もう教室には私たちだけで、時計は27分を指していた。
3人を授業に遅刻させるわけにはいかない。
まだ同級生と話すのに慣れていない私は、緊張して言葉が素っ気なくなってしまった。
起きるまで待っていてくれたのに、こんな態度ではそのうち嫌われてしまうかもしれない。
2人は教科書を持って廊下に出ていったけど、望だけは私の顔を見つめたまま動こうとしない。
じっと彼の瞳を見つめ返せば、私の方へと手を伸ばしてくる。
彼は手ぐしで私の前髪を梳き、無邪気な笑みを見せてくれる。
ドキッ
触れていないのに、額にほんのり熱を感じた。
私が一言も話せないでいるうちに、彼は教室を出ていってしまった。
そう思いはするものの、どうしたら友達になれるのかがいまいちわからない。
まずは話しかけることが必要だと思うけど、どんな話題がいいのだろう。
天気がいいこと、昨日見たテレビのこと、休日は何をしているか、好きなものは何か。
パッと思いつく彼との共通点と言えば、よく眠ること。
ふと思ったことを口にしてしまい、恥ずかしさが込み上げてきた時――。
彼はいつも通りの調子で席に座り、私の方を向いて眠る体勢に入ってしまう。
こんなところで思っていることが重なり、私は思わず頬がゆるんで笑ってしまう。
彼も私を見上げて嬉しそうに微笑んでくれる。
キーンコーン
カーンコーン
私は彼の教科書も持って席を立つ。
彼は口では駄々をこねつつも、立ち上がって私の後についてきていた。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。