私が目覚めて5日。
今日は夏祭り。
ホントなら超ウッキウキで家出てたはずなのに……
だめだ。
今年も夏祭り行けない…
昨日イツメンが来て、
玄弥の無事と、詐欺師の逮捕が告げられた。
へっ私のおかげで逮捕できたんだぜいって
みんなに自慢してたら。
私が倒れた後に無一郎が助けてくれたらしい。
無一郎いなけりゃ
私は誘拐されてたかもしれない。
改めて親友に感謝だ。
私が眠っていたのは丸1日。だけ。
ほんとにどうってことなかった。
けど、誘拐されかけたのは事実。
責任を感じていたらしいおはぎ先生は
ずっと私に付き添ってくれていたらしい。
ふと現実に意識を向けると、
遠くで太鼓の音が聴こえる。
ああ、祭りがそろそろ始まるのか。
そういえば今年は花火が上がるとか言ってたな。
それくらいは、ここから見えたらいいなぁ…
コンコン
1人寂しく窓を見つめていたら突如聞こえたノック音。
みんなは祭りに行ってるはずだし、誰…?
どうやら夏祭りに行けなかった私のために
わざわざお菓子を買ってきてくれたらしい。
内容は怖いけど
先生とこうして楽しく話せたなら、
夏祭り行けなくても良かったかな。
そう思ってた時。
ふと、あの夢を思い出す。
あの、「天月あなた」の夢。
あの夢には無一郎のそっくりさんも
宇髄先生のそっくりさんも、
おはぎのそっくりさんもいたなぁ……
「天月あなた」も、私にそっくりだった。
あんなにも具体的で、前にも見たことある感じ。
なによりあの詐欺師が言っていた「元鬼狩り」。
「天月あなた」が「天瀬あなた」の前世だって、
否定するほうが難しい。
じゃあ、あの夢に出てきた
無一郎も師匠も風柱も、
みんなそれぞれの、前世?
思わず呟いてしまったその言葉に、
目を大きく見開いて固まる先生の反応は、
その事実を物語っていて。
彼は私と同じ元鬼狩り。
鬼殺隊の風柱だった。
そして、私が前世で想いを寄せていた人……
テストでは全く頭回らないくせに、
こういうときだけ頭の回転は早くて。
今の私が持っている先生への気持ちすら
理解してしまった。
私は、今もこの人が………
恥ずかしくなって、
窓の外を見るふりして顔をそらす。
はっ馬鹿だなぁ私。
あんなこと言ったら、
こんな風に気まずくなることくらい
分かっていたはずなのに。
私達の前世は、
思い出してもいいことなんて無いのに……
先生の口から聞こえた
その懐かしい呼び方にハッとする。
先生の方に顔を向けると、
上を向いて、
顔を隠すように手で覆っていた。
そしてそのまま話を続ける。
その人はたしか、鬼殺隊の長みたいな人…
そうだ、御館様の奥さんだ。
そっか……
無一郎、前世から私の事……
私は前から無一郎のこと
男の子として好きでは無かったけど、
確かに私の大切な人だった。
好きな人だった。
例えその好きの意味が違っても、
大切な人が亡くなったと知った時の哀しみは、
私もよく知ってる……
あの日の絶望は、忘れられない……
あの日流した、涙も………
私がこの人に
私がこの人に抱く感情と
この人……不死川さんが
私に向ける感情は全く違う。
そんな事は、とっくに分かってる……
ドーン ドーン
思わず下がっていく
私の気分とは反対に、
窓の外では光の花が
夜空へ上がってゆく。
………綺麗だなぁ
ドォーン
花火と重なって、
声が聞こえない。
🌟Thank you for reading🌟
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!