沫が目を覚ますと日は沈みかけていて、夕日が部屋に差し込んでいた。どこか見覚えのある景色に感じたが、モヤが掛かったように思い出せなかった。
そっとドアをあけ廊下にでる。そこには誰もいなかった。
ただ花瓶の飾られた小さな棚だけがあった。
沫の部屋は端にあったようで迷わずに下の階に降りられた。
出されたのは具沢山のスープ。沫は口いっぱいに頬張った。
郷土料理だから懐かしい感覚がする。それも間違ってはないかもしれないが……
『本当に昔から馴染みのある味』
そんな気がしたが、よく分からなかった沫はまた口いっぱいにスープを頬張った。
晩御飯を食べ終わってから沫は、布団の中でぐるぐると考えていた。
兄はどこに行ってしまったのか。自分は何を忘れてしまったのか。スープの異常なほどの懐かしさはなんだったのか。
何も分からないまま、気づけばまた夢の中へと転がり込んでいた。
朝、鳥のさえずりで目を覚ました沫。
その時ハッとして、声が詰まった。
兄はここにはいない。涙がこぼれそうになりながらも、堪えて顔を洗ってから下に降りる。
勢いよく飛び出して行った店主を見て思わず呆れてしまった。
仕方ないと思いながら外への扉を開ける。
そこには賑やかな声が響く広場があった。鍛冶屋や、陶芸屋……さすが火の国と言ったところか、火を扱う物が沢山ある。
とても熱気があり、沫は思わず見入っていた。
大きな楽しみとほんの少しの懐かしさを抱えて、とりあえず歩き始めた。
しばらく歩き続けて、沫は今更自分が迷子になっていることに気づいた。『神様なのだから豪華な家だろう』なんて考えで、人の少ない方へ来ていたのだ。帰る方向すら分からず、途方にくれていたが――
草むらがガサガサ揺れ、足元で
そんな可愛い声がどこからか聞こえた。
小さな声を頼りに見つけ出した声の主は『スライム』だった。
ただ、今まで様々な世界を旅した沫にとって、過去一可愛いスライムだった。丸くてもちもちした見た目。くりくりの目。あまりの可愛さに、思わず撫でてしまった。
さすがに喋るスライムは初めてで驚いた。口のようなものは見当たらないが……どこにあるのだろうか……?
どの世界のスライムも、雑食でなんでも食べる性質だった。この世界ではどうなのかは分からないが……
見た目に似合わない、かっこいい名前だった。
シアンのぷるぷるな体が日光に反射してキラキラと輝いていた。
シアンは沫の方を振り返りながらぴょこぴょこと進んで行った














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!