第20話

🦋第6章 継承 継ぐ想い
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2025/10/22 00:14 更新
 朝の蝶屋敷は、柔らかな光に包まれていた。
 廊下には掃き清められた木の香りが漂い、庭の藤が風に揺れるたび、花の影が障子に淡く映る。
 かつて、胡蝶しのぶとカナエが立っていた場所。
 今、その中央に立つのは──栗花落カナヲだった。

 しのぶの羽織を纏い、整った姿勢で皆を見渡す。
 その背筋には、誰かの背を追うような迷いはもうない。
 静かで、けれど確かに“導く者”の強さが宿っていた。

 「アオイ、薬の在庫の確認をお願い。すみ、炭治郎のところに新しい包帯を届けて」
 カナヲの声は落ち着いていて、かつての寡黙さが嘘のようにしっかりと響いた。
 その姿に、皆が自然と頷き、動き出す。

 ──蝶屋敷の主。
 誰もが心の中でそう呼んでいた。

 縁側の隅でそれを見ていたつむぎは、胸の奥がじんと熱くなるのを感じていた。
 桃色の髪飾りが光を受けてきらめき、頬を照らす。

 (カナヲ姉さん……本当に、強い人だ)

 かつて怯えて声すら出せなかった自分。
 助けてもらうばかりだった日々。
 けれど今は、違う。
 あの人のように、誰かの支えになれる自分になりたい。

 「……私も、頑張らなきゃ」
 つむぎは小さく呟き、立ち上がった。
 その手には、昨日カナヲから受け取った藤の花びらが握られている。

 薬草を刻む音、湯気の香り、誰かの笑い声。
 そのすべてが、あの日失われた世界の続きにある。
 ここに生きるみんなが、しのぶとカナエの遺した灯を絶やさずに繋いでいるのだ。

 カナヲはつむぎに気づき、やわらかく微笑んだ。
「おはよう、つむぎ。今日も手伝ってくれる?」

 「はい。……私、もっと役に立ちたいです」
 つむぎの声には、昨日までになかった確かさが宿っていた。

 「ふふ、それなら頼もしいね」
 カナヲはそっと藤棚の方へ視線を向けた。
 春風が吹き抜け、花弁が二人の間を舞う。

 「この屋敷はね、誰かの想いが繋がってできてるの」
 「想い……ですか?」
 「うん。痛みや悲しみもあったけど、それ以上に“優しさ”で支え合ってきた場所」
 カナヲは言葉を選ぶように、少しだけ目を伏せた。
 「だから今度は、私たちの番だよ。──この灯を、守るのは」

 つむぎはその言葉を胸に刻むように、まっすぐ頷いた。
 「はい。私も、守ります。この場所を、そして……カナヲ姉さんを」

 藤の花が風に舞い、空へと昇っていく。
 まるで見えない蝶が二人のまわりを舞っているかのようだった。
 しのぶとカナエの微笑みが、その風の中に溶けているように感じられた。
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