第19話

🦋第6章 継承 藤の風の中で
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2025/10/18 14:00 更新
蝶屋敷の庭は、藤の花が満開だった。
 紫の花房が春の風に揺れ、甘い香りがやわらかく漂っている。
 しのぶの羽織を纏ったカナヲは、縁側に静かに腰を下ろしていた。
 もう「鬼殺隊」は存在しない。
 それでも、彼女の姿にはどこか背筋の伸びた気高さがあった。
 守るべきものを守り抜いた人の、静かな強さだった。

 つむぎは、そんなカナヲを見つめていた。
 春の日差しを受けて、花びらのように輝いていた。

「……やっぱり、素敵です」
 つむぎの声は小さく、けれどまっすぐだった。
「カナヲ姉さんが、その羽織を着ていると……まるでしのぶさんが生きてるみたいで」

 カナヲは振り返り、少しだけ微笑んだ。
「そうかもしれないね。でも、これは私のための羽織でもあるの」
 そっと袖を撫でる。
「しのぶ姉さんの想いと、私自身の道を重ねていくための……そんな気がして」

 つむぎは一瞬言葉を失い、それから小さく頷いた。
「……私も、そんな風になりたいです。
 ちゃんと誰かの想いを受け取って、次へ繋げられる人に」

 カナヲは立ち上がり、庭へと歩み出た。
 その足元に、藤の花びらがひとひら落ちてくる。
 彼女はそれをそっと拾い上げ、つむぎの掌に置いた。

「これは、あなたに」

「え……?」

「巡るものだから。優しさも想いも、こうして受け渡されていくの」
 カナヲの声は、春風のようにやわらかかった。
「だから、つむぎもこの藤の花びらを忘れないで。
 いつか、あなたの手で誰かに渡してあげて」

 つむぎは藤の花びらを胸に抱き、微笑んだ。
「……はい。必ず、繋ぎます」

 その時、風が二人の髪を揺らした。
 まるで二羽の蝶が、そっと舞い降りたように。
 しのぶとカナエが、優しく見守っているような気がした。

 カナヲは目を細め、つぶやく。
「ありがとう……カナエ姉さん、しのぶ姉さん」

 春の光が、二人を包み込んでいった。
第6章 継承 幕明
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