蝶屋敷の庭は、藤の花が満開だった。
紫の花房が春の風に揺れ、甘い香りがやわらかく漂っている。
しのぶの羽織を纏ったカナヲは、縁側に静かに腰を下ろしていた。
もう「鬼殺隊」は存在しない。
それでも、彼女の姿にはどこか背筋の伸びた気高さがあった。
守るべきものを守り抜いた人の、静かな強さだった。
つむぎは、そんなカナヲを見つめていた。
春の日差しを受けて、花びらのように輝いていた。
「……やっぱり、素敵です」
つむぎの声は小さく、けれどまっすぐだった。
「カナヲ姉さんが、その羽織を着ていると……まるでしのぶさんが生きてるみたいで」
カナヲは振り返り、少しだけ微笑んだ。
「そうかもしれないね。でも、これは私のための羽織でもあるの」
そっと袖を撫でる。
「しのぶ姉さんの想いと、私自身の道を重ねていくための……そんな気がして」
つむぎは一瞬言葉を失い、それから小さく頷いた。
「……私も、そんな風になりたいです。
ちゃんと誰かの想いを受け取って、次へ繋げられる人に」
カナヲは立ち上がり、庭へと歩み出た。
その足元に、藤の花びらがひとひら落ちてくる。
彼女はそれをそっと拾い上げ、つむぎの掌に置いた。
「これは、あなたに」
「え……?」
「巡るものだから。優しさも想いも、こうして受け渡されていくの」
カナヲの声は、春風のようにやわらかかった。
「だから、つむぎもこの藤の花びらを忘れないで。
いつか、あなたの手で誰かに渡してあげて」
つむぎは藤の花びらを胸に抱き、微笑んだ。
「……はい。必ず、繋ぎます」
その時、風が二人の髪を揺らした。
まるで二羽の蝶が、そっと舞い降りたように。
しのぶとカナエが、優しく見守っているような気がした。
カナヲは目を細め、つぶやく。
「ありがとう……カナエ姉さん、しのぶ姉さん」
春の光が、二人を包み込んでいった。
第6章 継承 幕明
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!