そんな、訳……っ
現実世界に帰るには、魔王討伐をすればいいん
でしょ?
…………いや。
よく、思い返してみれば……
システムコンソールを見たあの時。
あそこに書かれていたのは……
ログアウトするには
"この世界での最終目標を達成する必要がある"
というだけ。
具体的な内容は、一切明記されていない。
なんで、今まで気づかなかったの………!?
言葉に詰まる俺を見て意地の悪い笑みを浮かべる。
最初から、俺が死ぬ以外にみんなを帰す方法はなかったってこと?
俺が、もっと早く死んでいれば、みんなは既に現実世界に帰れてたの?
…俺が、みんなを苦しめてたの……?
俺が…………っ
ぽつりと呟く。
この世界にみんなが一年間も囚われていたのも。
秋にパラサイトのとの戦闘で傷ついたのも。
この間、グレアに瀕死の状態まで追い詰められたのも。
全部全部、俺のせい…なんだ。
俺がもっと早く死んでいれば、そんなことにはならなかったのに。
それなら……
俺は、一刻でも早く死んでみんなを現実世界に帰さなきゃ。
それが、一番いいんだよね?
この世界に来るまでは、こんな思考をするようになるとは思ってもいなかった。
それまでの俺には、親の言う通りの"優等生"でいる
ことしか頭になかったもん。
でも、みんなと出会って………
もっと大事なことを知って。
みんなが、何よりも大切で、大好きになって。
みんなと過ごす毎日はすっごく楽しくて、幸せだった。
なのに。
なんで、こんなことになっちゃったんだろうね。
俺が、みんなと出会ったこと自体が間違いだったのかな……
俺は……
生きている価値なんてあるのかな。
……この疑問、あの日…
この世界でも死ぬってことをみんなに伝えたあの日の夜も考えてたな。
あの時は、考えるのが怖くて、すぐに考えるのをやめたけど。
今なら分かる。
解は否。
俺は、生きてるだけでいろんな人に迷惑をかけて、
苦しませている。
価値なんて、あるわけない。
みんな。
ごめん…………
お兄ちゃんが俺の首を締める力がさらに強くなって、呼吸が出来なくなる。
このまま………
聞き慣れた、大好きな声。
おらふくん………っ
でも、ここで聴こえるわけ…
そう思うと同時に、青い光の光芒がさす。
お兄ちゃんの手が離され、俺は床に座り込む。
本能が酸素を求め、荒い呼吸を繰り返す。
顔をあげると、心配そうに俺を覗き込むMENの顔が
見える。
場違いに呑気に騒ぐ声。
ぼんさん…
ドズさん……!
ここはおそらく、システム内の空間。
俺は強制テレポートされたから来れたけれど、GM
権限のないみんなが来れるわけがない。
いつのまにか横に来ていたおらふくんが説明してくれる。
みんなのいつもの雰囲気に緊張していた気分がふっとほぐれる。
………いや。
無感情な俺の声に、みんなの表情が固まる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。