第73話

69話 最悪の再開
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2024/04/28 10:24

めまいのような感覚がなくなってきたのを感じる。

体の硬直も解け、瞼を持ち上げようとした時。









全身に鈍い衝撃が走る。

背がどこかの壁にぶつかった。


何………?




恐る恐る目を開けると、真っ白な空間が目に入る。



ここ……システムコンソールがあるところ、?
何で……?

テレポートされたっぽいけど……誰に?

それに、さっきの衝撃は……?












???
おい


声に慌てて視線を上に向けると、少し遠くからこちらに向かって歩いてくる人影が見える。



おんりー
おんりー
……お兄ちゃん、?
お兄ちゃん
お兄ちゃん
黙れ
静かなのに、どこか怒りを感じさせる声。

同時に、ここにきた時と同じ衝撃が突く。




今の……攻撃魔法?

それも、相当強力な。

聖書を使った攻撃魔法と同等か……それ以上かもしれない。


なんで、お兄ちゃんがそんな強い魔法使えるの……?

お兄ちゃんはこの世界に今までいなかったはずなのに。

答えを探すために視線を彷徨わせると、その手に微かに青く光るカードが握られていることに気づく。
何、あれ。


あれを使って魔法を撃ってる……?


GM権限を使うためのカード、とかなのかな。


俺が困惑しているうちに、目の前までお兄ちゃんが歩いてくる。

お兄ちゃん
お兄ちゃん
お前さぁ。
伸ばされた手を避けようとするも、先ほどの攻撃魔法で受けたダメージが相当大きかったのか、激痛が走る。
おんりー
おんりー
っ、……!




手が首元を掴み、宙吊りにされる。


手を振り解こうとするも、うまく力が入らない。



首を軽く絞められ呼吸が細くなる。



苦しい……っ


お兄ちゃん
お兄ちゃん
いつまで生きてんの?
苦しさに顔を歪める俺を無感情な目で睨む。


そうだった。

お兄ちゃんは、俺を殺すために俺らをこの世界に閉じ込めたんだったよね。
おんりー
おんりー
素直に死ぬわけねぇだろ……っ
お兄ちゃん
お兄ちゃん
じゃあ、早く死ねよ
首を絞める力が強くなる。
おんりー
おんりー
嫌…!

このままじゃ、殺される……っ!




お兄ちゃんが攻撃魔法を撃ってきたってことは、この空間でも魔法は問題なく使えるはず。

何とか、距離だけでも取りたい…!

攻撃魔法……本当は聖書を開きたいところだけど。

今はそんな余裕はない。
相変わらずの無表情のお兄ちゃんを睨み返し、無詠唱で攻撃魔法を撃つ。
この至近距離なら、当たるはず……!


次の瞬間、お兄ちゃんの持つカードが青い光を放つ。
同時に半透明の鏡のような膜が出現する。


カウンター魔法…っ!
おんりー
おんりー
《protection》
俺も眼前に防御魔法を張りカウンター攻撃を相殺する。

魔力が急速に吸われていく。


っ、やばい……!


忘れてた。


俺は、国境門に結界を張った帰りで。

魔力をほとんど使っていた。


寮に着いたら先生に回復薬を貰えるはずだったけれど、まだ回復薬を飲んでいない。


このままだと、魔力枯渇で死ぬ……っ!


お兄ちゃん
お兄ちゃん
無駄に抵抗するなよ
面倒だから


抗わないなんて、出来るわけねぇだろ……

お兄ちゃん
お兄ちゃん
そんなに生にしがみついてどうする?
お前、そんな性格だったか?

別に、俺一人だったら最悪死んだって構わないかもしれない。

………別に、生きてるのか楽しいって感じたことなんてないし。




でも。

俺は、みんなを無事に現実世界に帰さないといけないから。

こんなとこで死んだら、みんなが……






お兄ちゃん
お兄ちゃん
……"奴等"は余計だったか。
低い声の呟きが耳に入ってくる。


奴等……?

もしかして、みんなのこと?


余計って………



おんりー
おんりー
何で、みんなを巻き込んだんだよ…!
お兄ちゃん
お兄ちゃん
巻き込んだ理由?
お兄ちゃん
お兄ちゃん
……お前の足を引っ張らせるためだよ
足を引っ張る?

そんなわけ…
お兄ちゃん
お兄ちゃん
お前、一人だったら速攻で仮想世界
から出る方法を探すだろ。
お兄ちゃん
お兄ちゃん
仮想世界内で死んでもらわないと
困るんだよ。
その為の時間稼ぎ。
お兄ちゃんは、俺がみんなを守ろうと……
現実世界に帰そうとするのを見越して。


みんなを巻き込んだの?

たった、それだけ?
おんりー
おんりー
何だよ、その理由……!


お兄ちゃん
お兄ちゃん
……お前、相当性格変わったな
鼻で笑うように歪んだ笑みを浮かべる。













お兄ちゃん
お兄ちゃん
じゃ、こう言われたらどうする?














お兄ちゃん
お兄ちゃん
巻き込まれたあいつらは、
お前のせいで現実世界に
帰れなかったって。
思いがけない言葉に息が詰まる感覚がした。


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