何故か記憶していたはずの場所は、正しい大青さんのマンションから少し北に逸れた場所だった。何棟か同じ形のマンションが立ち並んでいるというせいか、記憶が狂ってしまったようだ。
彼が、小さな子供を扱うように私の頭を撫でた。ニコニコとした彼の笑顔を見て、ハッと気づいた。
大青さんはサラリと、話題を変える。仕方なく、紙袋を差し出した。中には、急いで作ったスープと駅前のパン屋で買ったバケットが入っている。それほど重たくはないのだが、持参したものが彼の手に収まるとなんだか、こんなものを手土産にしたのは正解だったのか、心配になる。
案内された部屋は、以前訪れた時と変わっていなかった。ホテルのように清潔でどの調度品も高級感たっぷり。私の部屋にある、ゆるキャラのぬいぐるみなんて置いたら、違和感を存分に味わえそうだ。
大青さんへコートを預ける。少し肌寒いのでウールのコートにした。コートを脱ぐと、早速腕まくりをする。
大青さんは私がそう尋ねることを分かっていたかのように、キッチンの扉を開けてくれた。
お言葉に甘えて、独立式のキッチンへと向かい、持参した圧力鍋を取り出した。広い調理台に置かれているのは、ジュースミキサーぐらいで、あまり料理器具は置かれていなかった。
冷蔵庫の中も、炭酸水のペットボトルが何本か入っているだけで、|空《から》と言っていいほど何も入ってない。
再度温め直した鍋と、軽くオーブンで焼き色を付けたバケットのスライスをトレイに載せてリビングへと戻る。テーブルセッティングを終えたあと、部屋の奥のパソコンの前に座る大青さんへと声をかけた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。