第16話

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2024/06/03 12:55
「すみません!ビール一つ!」
気前の良さそうな店主が、あいよ!、と返事を返す。
今日は金曜日。
明日は休みだ、今日はうざい事しかなかったので、居酒屋で飲みまくる予定だ。
さぁ飲むぞ!と心に誓っていると、細身のお兄さんが話しかけてきた。
「こんばんは、お嬢さん。お隣いいですか?」
「えぇ、どうぞ」
快く受け入れた。
あわよくば、私の愚痴を聞いて貰おう、そう思っていた。

       ☆ ★ ☆

「それでねぇ!明日はおやすみ!だから鬱憤バラシに何しようか迷い中!」
私が隣に座るやいな、直ぐにビールが来て飲み始めてしまった。
仕事の愚痴から始まり、恋愛の愚痴、生活の愚痴など様々な話を聞いた。
質問するとどんどん返ってくるので、彼女は殆どの個人情報を私に話したのではないのだろうか。
「うんうん、何したい?」
「んー!何でも!楽しければいい!」
最初に出会った時のお姉さん気がなくなり、子供のようだ。
「いやあ、おにーサンよくモテるんだろうなぁ、かっこいいし、お話上手だもんねえ。さぞ女性が集まってくるだろう」
彼女はかなり泥酔している、恐らく明日の朝には、キレイサッパリこの記憶は無いだろう。
「ふふ、そんな事ないですよ」
「私は彼氏いない歴と年齢イコールはよ?はー、疲れるねぇ。周りは皆付き合い始めただ、結婚なんだ云ってるけど、私には関係ない話!なんて虚しいんだ!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
彼女は段々と声に勢いが増していった。

       ☆ ★ ☆

目が覚めた、見慣れた天井や壁、家具が目にはいる。
今週も、何時もの清々しい休日の朝が送れると思った。
しかし、そうはいかないようだ。
私は全裸、そして股の間に変な違和感。
隣には同じく全裸の男性が気持ちよさそうに寝ていた。
寝起きで、二日酔いの、よく回らない頭で一生懸命考えた。
「・・・」
どう転んでも、抱かれた、という結論にしか至らない。
「ん・・・おはよう」
隣で寝ていた男性が起きて早々、私に抱きつく。
訳も判らず、私は腕にすっぽりと収まる。
「おはよう、ございます。・・・えっと貴方は?」
「おや?忘れてしまったのかい?」
男性は少し離れ、私の顔を見て微笑む。
朝日がカーテンの隙間から差し込み部屋を照らす。
その光は私の躰も照らす。
「昨日はあんなに、可愛く喘ぎながら私の名前を呼んでいたのに。寂しいじゃあないか」
無駄に色気がある、云い方だ。
矢っ張り、やらかしていたか。
「す、すみません。記憶が何一つとしてない状態でして・・・」
「なーんて、嘘。・・・と云ってやりたいところだが、本当の事だ。すまない、こんな形で君の大切な初めてを奪うことになってしまうなんて・・・」
「まぁ・・・お互い様、と云うことで。今回のはチャラに___」
「チャラにしてしまうのかい?悲しいね」
私が目をそらすと、直ぐに接吻された。
「っ!?」
私は驚きすぎて声が出なかった。
「私はこの出逢い無かったことにしたくないなあ」
妖艶な笑みを浮かべ、彼は悲しそうにした。
「っでも」
「しばらく、この家にお世話になろうじゃないか」
名も判らない彼が、どうやらこの家に住み込むようだ。
「私は、太宰よろしくねあなたさん」

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