屋上から教室に戻ったあと。
橘は席に座りながら、ちらっと佐野を見る。
佐野は机に肘をついて、なんだか不機嫌そう。
橘
「……」
(さっきの顔)
(かわいかった)
嫉妬してる佐野。
橘はふっと小さく笑う。
橘
「……」
(もう一回見たい)
そして立ち上がる。
橘
「ねえ」
男子
「え、橘?」
橘
「さっきの話だけど」
男子たちが一気にテンション上がる。
「え、なに」
「どうした」
橘
「このぬいぐるみ」
カバンについてるペンギンを軽く持つ。
橘
「かわいいでしょ」
男子
「かわいい!」
男子
「近くで見ていい?」
橘
「いいよ」
男子たちが少し近づく。
「どこで買ったの?」
橘
「水族館」
「いいなー」
「触っていい?」
橘
「いいよ」
男子がぬいぐるみに手を伸ばす。
橘はその瞬間——
ちらっと横を見る。
佐野。
机に座ったまま、こっちを見ている。
顔が完全に不機嫌。
橘
「……」
(やっぱり)
(嫉妬してる)
男子
「橘ってさ」
男子
「普通にかわいいよな」
橘
「……そう?」
男子
「うん」
「佐野いいなー」
橘はまた佐野を見る。
佐野は完全にこっちを見ている。
目が合う。
橘は少しだけ笑う。
佐野の眉がぴくっと動く。
数秒後——
ガタッ。
佐野が立ち上がる。
男子
「お」
男子
「佐野」
佐野はそのまま橘のところへ来る。
橘
「……はやとくん」
佐野は橘の手を掴む。
橘
「ちょ」
佐野
「行くよ」
男子
「え、また?」
橘は少し笑いそうになるのを我慢する。
廊下に出る。
橘
「はやとくん」
佐野
「なに」
橘
「また?」
佐野
「……」
橘
「怒ってる?」
佐野
「怒ってない」
橘
「嘘」
橘
「嫉妬してる」
佐野は少し黙る。
そして言う。
佐野
「……してる」
橘は少し笑う。
橘
「やっぱり」
佐野
「わざとだろ」
橘
「……」
橘は少し目を逸らす。
橘
「……ちょっと」
佐野
「やっぱり」
佐野はため息をつく。
佐野
「あなた」
橘
「なに」
佐野
「いじわる」
橘
「はやとくんがかわいいから」
佐野が一瞬止まる。
佐野
「……は?」
橘は少し照れる。
橘
「嫉妬してる顔」
橘
「かわいい」
佐野は数秒黙る。
そして——
橘を壁に軽く押す。
橘
「……っ」
佐野
「それ言う?」
橘
「……うん」
佐野
「覚えとけ」
橘
「なにを」
佐野
「仕返しする」
橘
「……」
橘は少しだけ笑った。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!