次の日の朝。
橘はカバンを肩にかける。
そこには——
昨日水族館で買ってもらった
ペンギンのぬいぐるみがついていた。
橘
「……」
少しだけ触る。
橘
「かわいい」
小さく笑って、そのまま学校へ向かった。
教室。
橘が入ると、少し空気が変わる。
女子たちが小声で話している。
「見て」
「また佐野の彼女」
「ぬいぐるみつけてる」
女子はあまり橘に近づかない。
でも——
男子は違った。
「橘」
橘
「……なに」
男子が近づいてくる。
「そのぬいぐるみかわいくね?」
橘
「……でしょ」
男子
「どこで買ったの?」
橘
「水族館」
男子
「へー」
男子はぬいぐるみに手を伸ばす。
男子
「ちょっと見ていい?」
その瞬間——
パシッ。
男子の手が止められる。
男子
「え?」
そこにいたのは佐野だった。
佐野
「触んな」
低い声。
男子
「いや、ぬいぐるみだろ」
佐野
「あなたの」
男子
「……は?」
佐野は橘の手を取る。
橘
「……っ」
橘
「はやとくん?」
佐野
「行くよ」
そのまま橘の手を握る。
教室の視線が一気に集まる。
橘
「ちょ、どこ」
佐野
「いいから」
そのまま教室を出る。
廊下を歩く。
橘
「はやとくん」
佐野
「なに」
橘
「手」
佐野
「うん」
橘
「……握りすぎ」
佐野
「離さない」
橘
「……」
そのまま階段を上る。
屋上のドアを開ける。
ガチャ。
風が吹く。
佐野はそこでやっと止まる。
橘
「……どうしたの」
佐野は少し黙る。
橘の手はまだ握ったまま。
橘
「はやとくん」
佐野
「なに」
橘
「怒ってる?」
佐野は少し目を逸らす。
佐野
「……別に」
橘
「嘘」
橘
「怒ってる」
少し沈黙。
そして佐野が小さく言う。
佐野
「……触ろうとしてた」
橘
「え」
佐野
「さっきのやつ」
佐野
「あなたに」
橘
「……ぬいぐるみでしょ」
佐野
「違う」
橘は少し驚いた顔をする。
佐野は橘を見る。
佐野
「あなただから」
橘
「……」
橘の顔が少し赤くなる。
佐野
「かわいいから」
橘
「……」
橘
「うるさい」
でも少し嬉しそう。
橘
「……はやとくん」
佐野
「なに」
橘
「嫉妬?」
佐野は少しだけ黙る。
そして小さく言う。
佐野
「……そう」
橘の心臓がまた速くなる。
佐野は橘の手を少し強く握る。
佐野
「だから触らせない」
橘
「……」
橘は少し俯いてから言う。
橘
「……別にいいよ」
佐野
「なにが」
橘
「はやとくんだけなら」
風が吹く屋上で——
橘の顔は少し赤かった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!