帰りの電車。
席はちょうど二人分空いていた。
橘と佐野は並んで座る。
橘はペンギンのぬいぐるみを膝の上に置いたまま、窓の外を見ていた。
橘
「……」
少し静か。
佐野
「あなた」
橘
「なに」
佐野
「眠そう」
橘
「眠くない」
でも声が少しぼんやりしている。
朝も早かったし、一日中歩いていた。
電車の揺れもあって、だんだん瞼が重くなる。
橘
「……」
数秒後——
コテン。
橘の頭が佐野の肩に倒れた。
佐野
「……」
佐野は一瞬固まる。
橘はそのまま目を閉じている。
佐野
「あなた」
小さく呼ぶ。
反応がない。
完全に寝ている。
佐野
「……まじか」
橘の髪が肩にかかる。
すごく近い。
寝息も少し聞こえる。
佐野は動けない。
動いたら起きそう。
佐野
「……」
ちらっと橘を見る。
気持ちよさそうに寝ている。
腕も少し佐野の腕に触れている。
佐野
「……かわいい」
小さく呟く。
橘は全く起きない。
電車が揺れるたびに、橘の頭が少し佐野に寄る。
佐野
「……」
佐野はそっと橘の頭を支える。
起きないように。
そしてそのまま窓の外を見る。
でも——
時々橘を見てしまう。
佐野
「……あなた」
小さく呟く。
橘
「……ん」
寝言みたいな声。
佐野は少し笑った。
電車はゆっくり進む。
しばらくして——
橘
「……ん」
橘が少し動く。
目がゆっくり開く。
橘
「……」
状況に気づく。
橘
「……っ」
慌てて体を起こす。
橘
「ごめん!」
佐野
「いいよ」
橘
「……寝てた?」
佐野
「うん」
橘
「……」
橘の顔が赤くなる。
橘
「……恥ずかしい」
佐野
「かわいかった」
橘
「うるさい」
橘はぬいぐるみを抱きしめる。
少し沈黙。
そして小さく言う。
橘
「……はやとくん」
佐野
「なに」
橘
「肩」
佐野
「うん」
橘
「……ありがと」
佐野は少し笑った。
電車は、ゆっくり二人の帰り道を進んでいった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。