第45話

⋈ season2 ep.10
368
2026/03/28 09:00 更新
帰りの電車。

席はちょうど二人分空いていた。

橘と佐野は並んで座る。

橘はペンギンのぬいぐるみを膝の上に置いたまま、窓の外を見ていた。


「……」

少し静か。

佐野
「あなた」


「なに」

佐野
「眠そう」


「眠くない」

でも声が少しぼんやりしている。

朝も早かったし、一日中歩いていた。

電車の揺れもあって、だんだん瞼が重くなる。


「……」

数秒後——

コテン。

橘の頭が佐野の肩に倒れた。

佐野
「……」

佐野は一瞬固まる。

橘はそのまま目を閉じている。

佐野
「あなた」

小さく呼ぶ。

反応がない。

完全に寝ている。

佐野
「……まじか」

橘の髪が肩にかかる。

すごく近い。

寝息も少し聞こえる。

佐野は動けない。

動いたら起きそう。

佐野
「……」

ちらっと橘を見る。

気持ちよさそうに寝ている。

腕も少し佐野の腕に触れている。

佐野
「……かわいい」

小さく呟く。

橘は全く起きない。

電車が揺れるたびに、橘の頭が少し佐野に寄る。

佐野
「……」

佐野はそっと橘の頭を支える。

起きないように。

そしてそのまま窓の外を見る。

でも——

時々橘を見てしまう。

佐野
「……あなた」

小さく呟く。


「……ん」

寝言みたいな声。

佐野は少し笑った。

電車はゆっくり進む。

しばらくして——


「……ん」

橘が少し動く。

目がゆっくり開く。


「……」

状況に気づく。


「……っ」

慌てて体を起こす。


「ごめん!」

佐野
「いいよ」


「……寝てた?」

佐野
「うん」


「……」

橘の顔が赤くなる。


「……恥ずかしい」

佐野
「かわいかった」


「うるさい」

橘はぬいぐるみを抱きしめる。

少し沈黙。

そして小さく言う。


「……はやとくん」

佐野
「なに」


「肩」

佐野
「うん」


「……ありがと」

佐野は少し笑った。

電車は、ゆっくり二人の帰り道を進んでいった。

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