第44話

⋈ season2 ep.9
310
2026/03/28 03:56 更新
水族館の出口近く。


「……」

橘はおみやげコーナーの棚を見ていた。

キーホルダー。

お菓子。

ぬいぐるみ。

その中で——

橘の目が止まる。


「……かわいい」

小さなペンギンのぬいぐるみ。

手のひらより少し大きいくらい。

橘はそっと持ち上げる。


「……」

ちょっとだけ笑う。


「かわいい」

その横で佐野が見ていた。

佐野
「欲しいの?」


「……別に」

橘はすぐ棚に戻す。


「見ただけ」

佐野
「ふーん」


「行こ」

橘はそのまま歩いていく。

佐野は一瞬ぬいぐるみを見る。

そして——

何も言わずにそれを手に取った。

レジへ向かう。

店員
「こちら一点ですね」

佐野
「はい」

袋に入れてもらう。

そして橘のところへ戻る。

橘は外で待っていた。


「遅い」

佐野
「トイレ」


「……ふーん」

二人は駅へ向かって歩く。

夕方。

少し疲れているけど、なんだか楽しい一日だった。

改札の前で止まる。


「……今日は」


「ありがとう」

佐野
「うん」

少し沈黙。

そのとき、佐野が袋を差し出した。

佐野
「あなた」


「なに」

佐野
「これ」


「……?」

橘は袋を受け取る。

中を見る。


「……」

さっきのペンギンのぬいぐるみ。


「……え」


「これ」

佐野
「さっきの」

橘は佐野を見る。


「……買ったの?」

佐野
「うん」


「……」

橘はぬいぐるみを見る。

そして小さく笑う。


「……ありがとう」


「大事にする」

佐野は少し満足そうだった。

橘はぬいぐるみを抱える。


「……はやとくん」

佐野
「なに」


「今日楽しかった」

佐野
「俺も」

橘は少し照れながら言う。


「また行きたい」

佐野は少し笑った。

佐野
「どこ」


「……どこでも」


「はやとくんとなら」

夕方の駅前。

ペンギンのぬいぐるみを抱えた橘は、少しだけ幸せそうだった。

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