廊下。
橘は壁の前に立ったまま、佐野を見ていた。
橘
「……なに」
佐野
「仕返し」
橘
「まだ言ってる」
橘は少し笑う。
橘
「はやとくん、嫉妬してたのに」
佐野
「……」
佐野は少し近づく。
橘
「……近い」
佐野
「あなた」
橘
「なに」
佐野は橘の耳元に顔を寄せる。
橘
「……っ」
橘
「ちょ」
佐野
「この前さ」
低い声。
耳元。
橘の体がびくっと揺れる。
橘
「……はやとくん」
佐野
「水族館」
橘
「……っ」
佐野
「覚えてる?」
橘
「……覚えてる」
佐野
「耳」
橘
「……」
橘の顔が一気に赤くなる。
橘
「やめて」
佐野
「なんで」
そして——
ふー。
橘の耳に息を吹きかける。
橘
「……っ!」
変な声が出る。
橘
「んっ」
佐野が一瞬止まる。
そして少し笑う。
佐野
「ほんと弱い」
橘
「……っ」
橘
「やめてって」
佐野はまた耳元で話す。
佐野
「あなた」
橘
「……っ」
橘
「はやとくん」
佐野
「なに」
橘
「近い」
佐野
「近くする」
また耳元。
橘
「……んっ」
また声が出る。
橘
「……っ」
橘
「ほんとやめて」
佐野
「やだ」
橘
「……っ」
橘は顔を隠す。
でも佐野は止まらない。
佐野
「あなた」
また耳元。
橘
「んっ……」
橘
「……外だからやめて」
顔が真っ赤。
佐野は楽しそうに笑う。
佐野
「わざと男子と話した罰」
橘
「……っ」
橘
「ずるい」
佐野
「まだやる?」
橘
「やめて」
橘
「ほんとに」
橘
「外だからやめて…っ!」
佐野は少し笑う。
佐野
「じゃあ」
橘
「なに」
佐野
「家帰ったら覚悟しとけよ?」
橘
「……は?」
橘
「うるさい」
橘は顔を真っ赤にしたまま、佐野から距離をとる。
橘
「もう近づかないで」
そう言いながら歩き出す。
でも——
耳はまだ赤い。
佐野はその後ろを歩きながら小さく笑った。
佐野
「かわいい」
橘
「聞こえてる」
佐野
「知ってる」
橘
「うるさい」
でも橘の歩くスピードは、少しだけ遅かった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。