第9話

初めてのことだらけ
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2021/07/07 04:00
ブティックでヨウにいくつか服を試着させ、似合ったものを数点買ってから、4人は喫茶店へと足を運んだ。


テーブルに着き、メニューが表示される端末を見ながら、蝶子がハナに質問する。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
アンドロイドも、少しは食べても問題ないのよね?

アンドロイドに食事が必要ないのは一般的に知られている。


しかし、ヨウは今、他の客が食べているパンケーキに釘付けだ。
ハナ
ハナ
はい。
食べ過ぎると消化不良を起こして故障しますので、限度は必要ですが……。
嗜好品として食事をとるアンドロイドも多く存在します
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
じゃあ、私とヨウはパンケーキにしようかな。
ヨウ、あれが食べたいんでしょ?
ヨウ
ヨウ
あ……いいんですか?
さっきは服も買ってもらったのに
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
ヨウが働けるようになってから返してくれれば、それでいいよ

蝶子たちはパンケーキと紅茶を、栄一たちはサンドイッチとコーヒーを注文した。


ヨウが良い匂いだと言っていたのはパンケーキだったらしく、ホイップの乗ったそれが運ばれてくると、彼は目を輝かせた。


蝶子がフォークとナイフの使い方を教え、ヨウは一切れを口にする。
ヨウ
ヨウ
……!
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
美味しい?
ヨウ
ヨウ
もっと食べたいです
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
あはは。
それは美味しいってことだよ

ヨウは、ここにきて初めて〝美味しい〟という感情を知った。


蝶子の胸には、切なさと嬉しさが同時に込み上げる。


向かいの席にいる栄一たちも、笑っていた。


***



喫茶店を出たところで、ハナがヨウを知り合いのアンドロイドのところへ連れて行きたいと言った。


栄一も寄るところがあるというので、少しの間別行動をすることになった。


ハナとヨウを見送ったところで、栄一は女性ものを扱うブティックに入る。


蝶子は栄一の用事が気になって、ついて行った。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
栄一の用事って何?
鳳 栄一
鳳 栄一
ハナに何かプレゼントしようと思って。
あいつ、親父のせいでほとんど休みなしで働いてるからさ

この店に入った時から、蝶子はなんとなくそんな気がしていた。


栄一は、本気でハナのことが好きらしい。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
そうなんだ。
それはいいと思うけど、その……あんまりのめり込まない方がいいよ
鳳 栄一
鳳 栄一
分かってる……。
でも、一度愛しいと思ったら、止められないものなんだ

栄一のためとはいえ、忠告するのは心苦しい。


頭では理解しているのだから、ハナを解雇するなりなんなりして、感情に歯止めをかければいいのに。


蝶子はそう思うのだが、もしもそれが自分とヨウの立場だったらと想像してしまった。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
(ヨウは今、行く宛てがない……。
だから追い出すことはできないけど)

しかし、ヨウがヨウが早く社会復帰を果たせば、そんな悩みを持つことはない。


蝶子は頭を振って、それ以上考えないようにした。



栄一は、花型の小さなブローチをプレゼントで購入した。


これならハナが仕事中も着けられるだろうと、嬉しそうだ。


蝶子は複雑な気持ちのまま、栄一と共にハナとヨウが戻ってくるのを待った。



***


ハナ
ハナ
近くで靴職人をしている、私と同期のアンドロイドがいるんです。
彼女に会って、ヨウさんを紹介してきました
ヨウ
ヨウ
靴、プレゼントしてもらいました。
社会復帰頑張れって
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
えっ、よかったね!
ハナさんも、ありがとうございます
ハナ
ハナ
いえ、お役に立てて光栄です!

ヨウは自分の足にぴったりの靴をもらえて、満足したのか何度も頷いていた。


外に連れてきて正解だったと蝶子も内心喜んでいると、背後から聞き覚えのある声がした。
同級生
同級生
夢咲さん……?
同級生
同級生
あ、鳳くんもいる

名前を呼ばれ、蝶子と栄一が振り返ると、高校の同級生たちがいた。


男女それぞれ2人ずつ、名前までははっきり覚えていないが、確かよく一緒にいるカップルだったと蝶子も把握している。


あちらはどうやら、ダブルデート中らしい。
同級生
同級生
あとの2人は見たことないけど……夢咲さんたちもデート中?
同級生
同級生
ん? 待て、こっちの2人アンドロイドだ

蝶子は嫌な予感がした。


学校では、蝶子も栄一も浮いている。


「ちょっと変わった子だし、近寄りがたいよね」と言われているのは知っていた。


それでいいと思っていたし、取り繕うこともしない。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
……行こう

蝶子がそう言った途端、4人はくすくすと笑い出した。


【第10話へ続く】

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