ブティックでヨウにいくつか服を試着させ、似合ったものを数点買ってから、4人は喫茶店へと足を運んだ。
テーブルに着き、メニューが表示される端末を見ながら、蝶子がハナに質問する。
アンドロイドに食事が必要ないのは一般的に知られている。
しかし、ヨウは今、他の客が食べているパンケーキに釘付けだ。
蝶子たちはパンケーキと紅茶を、栄一たちはサンドイッチとコーヒーを注文した。
ヨウが良い匂いだと言っていたのはパンケーキだったらしく、ホイップの乗ったそれが運ばれてくると、彼は目を輝かせた。
蝶子がフォークとナイフの使い方を教え、ヨウは一切れを口にする。
ヨウは、ここにきて初めて〝美味しい〟という感情を知った。
蝶子の胸には、切なさと嬉しさが同時に込み上げる。
向かいの席にいる栄一たちも、笑っていた。
***
喫茶店を出たところで、ハナがヨウを知り合いのアンドロイドのところへ連れて行きたいと言った。
栄一も寄るところがあるというので、少しの間別行動をすることになった。
ハナとヨウを見送ったところで、栄一は女性ものを扱うブティックに入る。
蝶子は栄一の用事が気になって、ついて行った。
この店に入った時から、蝶子はなんとなくそんな気がしていた。
栄一は、本気でハナのことが好きらしい。
栄一のためとはいえ、忠告するのは心苦しい。
頭では理解しているのだから、ハナを解雇するなりなんなりして、感情に歯止めをかければいいのに。
蝶子はそう思うのだが、もしもそれが自分とヨウの立場だったらと想像してしまった。
しかし、ヨウがヨウが早く社会復帰を果たせば、そんな悩みを持つことはない。
蝶子は頭を振って、それ以上考えないようにした。
栄一は、花型の小さなブローチをプレゼントで購入した。
これならハナが仕事中も着けられるだろうと、嬉しそうだ。
蝶子は複雑な気持ちのまま、栄一と共にハナとヨウが戻ってくるのを待った。
***
ヨウは自分の足にぴったりの靴をもらえて、満足したのか何度も頷いていた。
外に連れてきて正解だったと蝶子も内心喜んでいると、背後から聞き覚えのある声がした。
名前を呼ばれ、蝶子と栄一が振り返ると、高校の同級生たちがいた。
男女それぞれ2人ずつ、名前までははっきり覚えていないが、確かよく一緒にいるカップルだったと蝶子も把握している。
あちらはどうやら、ダブルデート中らしい。
蝶子は嫌な予感がした。
学校では、蝶子も栄一も浮いている。
「ちょっと変わった子だし、近寄りがたいよね」と言われているのは知っていた。
それでいいと思っていたし、取り繕うこともしない。
蝶子がそう言った途端、4人はくすくすと笑い出した。
【第10話へ続く】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!