第27話

静かな机に落ちた影
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2026/02/08 10:00 更新
朝の羅刹学園。

四季はいつものように大声で挨拶しながら教室へ入る──はずだった。

だが、その足が止まった。
一ノ瀬四季
……な、に……これ……?
四季の机だけ。

まるで誰かに蹴飛ばされたように傾き、中身は床に散らばり、ノートは破れかけ、プリントはぐしゃぐしゃ。

クラス全体が静まり返る。
皇后崎迅
……
入ってきた皇后崎は、一瞬だけ殺気のような気配を流し、散乱した机を無言で見つめた。
皇后崎迅
……これ、誰の仕業だ
一ノ瀬四季
い、いや……俺が昨日ちゃんとしまわなかっただけだって……!
無理に笑う四季。

その声はかすれていた。
無陀野無人
四季
静かな声が落ちる。
無陀野無人
これは“事故”ではない。お前の机だけが狙われている。 ──事件だ
一ノ瀬四季
え、でも俺、別に……
無陀野無人
否定するな。怒っていい
四季の胸がつまる。

(怒っていい……?俺が? こんなことで?)
花魁坂京夜
ちょっと待って……これ、四季の机?
教室に入った京夜が散乱した様子を見た瞬間、笑顔が凍りつく。
花魁坂京夜
は? どこのどいつ?四季くんの物に触るとか、マジで殺す気?
一ノ瀬四季
ちゃ、チャラ先……
花魁坂京夜
四季くんは自分のもの大事にする子なんだよ?
それを荒らすとか、ほんと許さない
その言葉に四季の指先が震えた。

(……俺のこと、ちゃんと見てくれてるんだ……)


そこへ、訓練から戻ってきた遊摺部が現れた。
遊摺部従児
騒がしいと思ったら……なるほどね
淡々とした口調のまま、しかし瞳に一瞬だけ怒りが宿る。
遊摺部従児
四季くん、怪我は?
一ノ瀬四季
え、あ、怪我は……ない……
遊摺部従児
……良かった
その低い声に、四季は胸がじんと温かくなる。
遊摺部従児
だがこれは放置できない。
“仲間の尊厳を踏みにじる行為”だからな
無陀野無人
遊摺部、協力してくれ
遊摺部従児
はい、犯人はすぐ特定できます
一ノ瀬四季
な、仲間……
遊摺部は四季の肩にそっと手を置く。
遊摺部従児
四季くんも、僕たちの仲間でしょ?
四季はぐっと唇を噛んで顔をそむけた。

泣きそうだったから。


矢颪は騒ぎを聞きつけて教室へ駆けてきた。
矢颪碇
っ、四季の机……っ!?
うそ、ひど……!
机を見て目を丸くしたあと、すぐに四季の手を取って覗き込む。
矢颪碇
四季、大丈夫か??
驚いただろ……?
一ノ瀬四季
だ、大丈夫! 俺、慣れてるしっ
矢颪碇
慣れる必要、ないからな?
一ノ瀬四季
……っ
矢颪の優しい声に、四季の胸の奥で何かが緩む。

遊摺部と無陀野の調査は早かった。

犯人は隣クラスの男子二人。
モブ
四季が騒がしいからムカついた
という、くだらない理由だった。
矢颪碇
……は?
花魁坂京夜
そんな理由で、こんなひどいこと……
無陀野無人
処分は決められるが……四季。お前の気持ちはどうだ?
四季はうつむいた。
一ノ瀬四季
……俺は……別に……平気……
無陀野無人
平気な者が、そんな顔をするか
四季は顔を隠すように腕で目をこする。
一ノ瀬四季
だって……こんなんで泣くの、かっこ悪いし……!
遊摺部はそっと四季を抱き寄せた。
遊摺部従児
泣きたいときに泣ける人は、強いんだよ?
矢颪碇
そうだな。泣いてくれたほうが、安心する
一ノ瀬四季
……なんでだよ……!
京夜は笑いながら四季の頭を撫でる。
花魁坂京夜
だって、頼られるの嬉しいじゃん?
無陀野は散らばったノートを拾いながら言う。
無陀野無人
四季。お前の持ち物を粗末に扱うことは、“俺たちへの侮辱”でもある
一ノ瀬四季
っ……!
矢颪碇
覚えてろよ。“悪いのは相手”。“傷ついたお前は、一切悪くない”
四季は堪えきれず、ぽろりと涙を落とした。
一ノ瀬四季
……う……わ……ありがとう……っ……
矢颪は背中を優しくさすり、遊摺部は静かに見守り、無陀野と京夜は机を元の状態に整え、皇后崎はそっとティッシュを差し出した。
四季は気づく。

(俺……こんなに守られてたんだ……)


――夜の寮

四季はふと、隣の皇后崎に話しかけた。
一ノ瀬四季
迅……今日、ありがとな
皇后崎迅
……別に。
お前が泣いたら、めんどうだろ
一ノ瀬四季
お前のそういうとこムカつく!
皇后崎迅
事実だからな
一ノ瀬四季
……でもありがと
皇后崎はそっぽを向いたまま、小さく。
皇后崎迅
……気にすんな
四季は笑って、布団に潜り込んだ。

今日だけは、胸の奥がずっと温かかった。

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