アウラは深く深く思考の海へ潜っていく。自分はどうするべきか。今、国はどうなっているのか。
まず、非常事態だからといって自分が戻ったところで出来ることは少ない。
ネーヴェラとエルヴァージュ、そしてフィートが居ながら解決できないのならアウラが行ったところでどうしようもないことは言わずともわかる事だ。
どころか、足でまといになったっておかしくない。
きっと、大丈夫だ。
そう願うことしか出来ない。
大丈夫である理由を探して、何も考えなくていい理由を探している。
別に戻ったっていいのだ。
またソルムと共にここまで来ればいい。
でもきっと、“次”を許してくれるほど彼女らは優しくはないだろう。
それくらい閉鎖的で、心配性だ。
それに魔女の中には、この霧が晴れた原因になった異変とアウラの脱走を関連付ける者も出てくるかもしれない。
関連していることを疑うのは簡単でも、関連していないことの証明は難しい。
……現実から目を背ける理由が出来てしまった気がした
くぁぁ、と大きな欠伸をした。
いかにも心外だ、と言わんばかりに顔を歪めたあと不満気な顔へとコロコロ表情を変えて、最後にフッと優しく笑う。
慈悲に満ち溢れたような顔は、とっくに忘れていたソルムが神官であるという情報を彷彿とさせる。
お調子者のような彼はきっととても優しくて、人の心に触れるのが怖くて、それでも助けたくて、だから神官をしているのだろう。
まだ付き合いの浅いアウラでも、それを何となく理解することが出来た。
自分が間違った思考へと落ちていかないように、優しく気遣って笑わせてくれて、笑いかけてくれる。
彼の慈愛に甘えて、アウラもその思惑に自ら乗りに行くことにした。…というより、するしか無かった。
それが真実かはともかく、アウラのことを気遣っての発言であることは容易に理解出来た。
よくできた人間だ、と素直にそう思ってしまう。
照れ隠しとも取れる言葉に笑いながら、アウラはゆっくりと夢の世界へ身を委ねていった。
規則正しい呼吸を繰り返し眠り始めたアウラをよそに、静かにため息を吐くソルム。
パチパチと弾ける焚き火の火の粉が、ソルムの思考をより鮮明にしていく。
さっきまでの優しい顔が嘘のように、目を細めて闇に包まれた空を睨んだ。
しかしすぐにヘラりと笑みを浮かべた顔に豹変する。
アウラの前でも見せているはずのそれは、独りのときにしか見せない不気味で独特な雰囲気を漂わせていた。
役者は揃った。
ようやく彼の罪を、代わりに償える。
さぁ、
彼を照らす月は、あの日と同じ十六夜月だった。
十六夜にはためらう、躊躇するって意味があるらしい。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!