真っ暗闇な夜に出発したのはいいものの、さすがに夜が進み闇が深まってきたので進むだけ進んで野営をしていた。
もう既に森の霧は晴れているが、木々の密度は相変わらずで、月明かり1つ通る隙間もないほど。
そんな場所で少し話がしたいとフィートが声をかけた。
頭を下げる。
スっと頭をあげて、再び淡々と話し始める。
ほとんど表情は変わらない。でも、真面目な話をしようとしている空気は、しっかりと漂っていた。
ゆっくりと、淡々と、それでいてはっきりと、彼女は自分の考えを伝えていく。
ここで思い当たる彼女とは、ただ1人。
“この世には知らないものが多すぎる”
その言葉は夢見の子供にはあまりにも甘い。
スッ、と細くなった目が痛い。
先程のフィートの言葉の意味を少しだけ理解する。
魔女にもなかなか難しい事情があるようだ、と目を瞑った。
魔女とて人間だ。
森以外で生きていけない理由なんてないはず。
むしろ森で生きる方が難しい。
それに、ネーヴの言い方は、
“魔女はこの森から出ては行けない”
重要なのは、魔女の森であるということ。
人間であり、300年前に生きる者でもないフランマは、行き場を無くした声が口中に留まり続け顔をしかめる。
そんな様子を見てフィートはフランマの心境に気づいたのか気づかなかったのか、再び口を開いた。
それに、300年と言えど変わり映えしない森の中に引きこもっているだけだ、と付け加える。
ここからが難しくてね、
そう言うフィートの、暗がりにの中の炎に照らされた美顔は、少しだけ眉をひそめているように見えた。
長生きしかしていない婆さんの独り言さ、と雑くはぐらかし、もう語ることはないと告げた。
明日に備え、フランマはすぐに眠りにつく。
夜番を買ってでたフィートは独りでに呟いた。
それでも、300年前の私は選択を変えることはないだろうが。
彼女は自嘲の笑みを漏らす。
ここ最近では珍しく顔に表情がついた、人間らしい顔だった。
彼女とて、感情がない訳では無い。
ただ、少しだけ心が鈍く、想いが顔に出にくいだけなのだ。
どんな形であれ、300年止まり続けていた世界が動き出しているのを感じる。
きっとここでひとつの終わりを迎え、そして始まっていく。
年寄りの時代は終わりかな、と思うがそれでもアウラにはまだまだ広い世界を知って欲しいものだ。
目に入れても痛くないほど愛しい教え子の未来を、自分が否定することだけは絶対に許されない。私があの子の行く末を応援し、そっと背中を押してやりたいのだ。
今回その仕事を引き受けることは叶わなかったが、停滞し続けていた世界を変えるのはあの二人。
焚き火に枯木をくべ、夜空をただ見上げていた。
場所は森の出口手前。
あれほど苦労した森を、ほとんど魔物に遭遇することも無く走り抜けられた事実に頬を引き攣らせたのはつい先程のことだが、今はフィートに礼を言うくらいには落ち着いていた。
機械的にぺこりをお辞儀をする。彼女と知り合って数日もたってはいないが、これが彼女のできる最大の謝礼だと、フランマはどこかで感じ取っていた。
フランマは姿勢をただし。森の外を眺める。
再びフィートに向き合って、力強く告げた。
想像以上に、優しい声色が返ってきた。
一礼して森の出口へ駆け出す。
「キミも怪我には気をつけるんだよ〜」
と、間延びした声が響く。
顔を見なかったら本当に抑揚のついた感情的な声だな、と走りながら思う。
王都には全力で向かえばこれから1日半ほどで到着する。
森の入口、つまりこの場所にたどり着けばネーヴェラの言っていた“暴走”の心配はない訳だが、残された時間はあまりにも少ない。
これからどうなるのか、詳しいことは誰にも分からない。
なのにこれにフランマが付き合う必要は皆無。
ただ危険な戦場に、自ら走りにいくのは、自分の命を守ることが優先される冒険者として正しい姿とはいえなかった。
誰かが悲しむ未来は、あまりにも苦しいから。
それに、行き当たりばったりな冒険も、自分らしくて良いものだ。
久しく感じていなかった高揚感は、これから自分の想像も出来ないことが起こるだろうという期待感故か。
それでこそ冒険者。それでこそ冒険!
魔女たちが聞いたらどう思われてしまうだろうか。案外笑って許してくれそうな気もするが。
フランマが駆け出した後、残されたフィートはいつの間にか生まれた霧の中に消えていった。
4000字近い…なにかの冗談かな?w
あ、はい…お久しぶりです…皆もう内容覚えてないよね














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!