第14話

3-4 ボカロPと自分の心
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2023/08/14 04:08


目の前のパソコンを見つめながら、頬杖をつく。

開いているサイトは『Twitter』。
アカウントは───

万事屋 依兎よろずや いと
......店長、賭けしましょう。
何処屋 夜流いずこや よる
え、賭け事?なになに?


依兎はパソコンを夜流の方に向け、口を開いた。

万事屋 依兎よろずや いと
これはネオさんのTwitterアカウントです。
万事屋 依兎よろずや いと
──ほら、見てください。1ヶ月くらい前までは毎日更新されています。


下の方に遡ると、
『やっぱ氷結って1番だよね。』や、
『おやすみ世界』等、身近なことを投稿している。

.........が。

万事屋 依兎よろずや いと
ただし、そこから今日まで1回も更新されていません。
万事屋 依兎よろずや いと
だから、3日後までにネオさんが投稿するか。どうですか?
万事屋 依兎よろずや いと
私は投稿するに300円賭けます。


あまりにも分からない賭け事。

ため息を着きながらも夜流は答えた。

何処屋 夜流いずこや よる
ええ...?何それ、僕ネオさんのことよく知らないんだけど。
万事屋 依兎よろずや いと
あれ、ノルマのこと忘れました?
何処屋 夜流いずこや よる
うぐ...
何処屋 夜流いずこや よる
......まあ、いいよ。投稿しないに500円。
万事屋 依兎よろずや いと
おっ、言いましたね?
万事屋 依兎よろずや いと
じゃあ10倍になって戻ってくることにしましょう。
何処屋 夜流いずこや よる
え"
万事屋 依兎よろずや いと
ふっふふー♪楽しみですね♪


こんな事に5000円も左右されるのか......

と思いながらも、3000円を少し楽しみにしている夜流であった。

ネオ
無くないか...?


店の周辺にあった建造物は覚えている。

ルートも、左右など細かいところは覚えていなかったが、どこで曲がるかは覚えていた。

───しかし、肝心の店が無いのだ。

見た目も覚えているのに。

あったはずの場所には、小さな書店。
もしかして...?と入っては見たが、ただの書店だった。

今の自分の格好。

・メガネ
・黒いキャップ
・黒いマスク
・黒いパーカー
・少し汚れたスニーカー
・右手に紙袋(鳴音オトを入れる用)
・左手にスマホ
・ボサボサの髪の毛

............どう見ても不審者じゃないか!

本当にどこにあるんだ...と彷徨っていた時。

『その"モノ"と引き換えてでもお金が欲しいんでしょう──?』

そう書いてある看板を見つけた。

ネオ
......あれ、これ...


見上げると記憶に新しい、小さな木造のお店。

──これだ!

と思ったと同時。
考えるより先に扉を開いていた。

万事屋 依兎よろずや いと
いらっしゃいま──って、お久しぶりです。
ネオ
あ、こんにちは......
何処屋 夜流いずこや よる
あれ、鳴音オトを売っていった方?
ネオ
そうです......
万事屋 依兎よろずや いと
ここに来たということは......
ネオ
はい、鳴音オトを取り戻しに来ました。


そんな言葉を発した瞬間、
『取り戻しに来た』
と、恥ずかしい言葉を放ったことに気づいた。

気のせいか、顔が赤くなっている気がする。
.........カッコつけちゃったな。

万事屋 依兎よろずや いと
了解です。
万事屋 依兎よろずや いと
ちなみに理由をお聞きしても?
ネオ
...えーと。
ネオ
自分はまだまだ無名のボカロPだったんですけど...
ネオ
それでも、自分の曲を求めてくれてる人がいるのかなって......


元々自分は何のために曲を作りたかった?

そう聞かれると、言葉に詰まる。
10年も前から作っていたのだ。もう覚えてなんかいない。

──ただ、これは言える。

ネオ
もしかしたらエゴかもしれないけれど。自分はボカロが好きだから。
ネオ
作り続けていたいんです。
万事屋 依兎よろずや いと
.........ふふっ、それだけボカロが好きなんですね。
万事屋 依兎よろずや いと
私も好きなボカロPさんがいるんです。
万事屋 依兎よろずや いと
相手のことを考えずに賭け事なんてしてしまったけど......それも私の『投稿して欲しい』エゴなんですよね。


チラッと男性の方を見ると、店員さんは微笑んだ。

万事屋 依兎よろずや いと
...ああ、話しすぎましたね。


そう言うと、鳴音オトを差し出した。
自分もお金を差し出す。

万事屋 依兎よろずや いと
ありがとうございました。
ネオ
いえ、こちらこそ。


そう交わすと、ベルの音を立てて店を出た。



『1ヶ月ちょい投稿出来てなくて申し訳ない...
リアルで仕事が溜まってて消化してた🙏
これから曲作り頑張るぞい💪』

ネオ
...よし。


おかしな所が無いか確認してから投稿を押す。

30秒後、いいねとRT、リプの通知が沢山来た。

ネオ
(こんなにファンっていたんだなぁ...)


盲目だった。

プレッシャーとか関係ない。
だって自分は自分のために曲を作っているから。
それでも着いてきてくれるファンがいる。
それだけで充分じゃないか。

ネオ
──よし。


次の曲、どんなのにしようかな。



万事屋 依兎よろずや いと
──あっ!


スマホを見ていた依兎が声を上げる。

何処屋 夜流いずこや よる
...何?どうしたの?
万事屋 依兎よろずや いと
ほら、見てください!


依兎が見せたスマホには、いまさっき投稿されたネオのツイートが表示されていた。

万事屋 依兎よろずや いと
投稿されましたよ!5000円!
何処屋 夜流いずこや よる
......うげ。


目をキラキラさせる依兎に対し、夜流は覚えてたのか......と後悔する。

何故500円と言ってしまったのだろう...5円でいいのに。

万事屋 依兎よろずや いと
うふふ...5000円♪


...今更辞めるとは言えないだろう。

ワクワクする依兎を背に、夜流は財布をひっくり返すのであった。
〜ボカロP編、終〜

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