目の前のパソコンを見つめながら、頬杖をつく。
開いているサイトは『Twitter』。
アカウントは───
依兎はパソコンを夜流の方に向け、口を開いた。
下の方に遡ると、
『やっぱ氷結って1番だよね。』や、
『おやすみ世界』等、身近なことを投稿している。
.........が。
あまりにも分からない賭け事。
ため息を着きながらも夜流は答えた。
こんな事に5000円も左右されるのか......
と思いながらも、3000円を少し楽しみにしている夜流であった。
店の周辺にあった建造物は覚えている。
ルートも、左右など細かいところは覚えていなかったが、どこで曲がるかは覚えていた。
───しかし、肝心の店が無いのだ。
見た目も覚えているのに。
あったはずの場所には、小さな書店。
もしかして...?と入っては見たが、ただの書店だった。
今の自分の格好。
・メガネ
・黒いキャップ
・黒いマスク
・黒いパーカー
・少し汚れたスニーカー
・右手に紙袋(鳴音オトを入れる用)
・左手にスマホ
・ボサボサの髪の毛
............どう見ても不審者じゃないか!
本当にどこにあるんだ...と彷徨っていた時。
『その"モノ"と引き換えてでもお金が欲しいんでしょう──?』
そう書いてある看板を見つけた。
見上げると記憶に新しい、小さな木造のお店。
──これだ!
と思ったと同時。
考えるより先に扉を開いていた。
そんな言葉を発した瞬間、
『取り戻しに来た』
と、恥ずかしい言葉を放ったことに気づいた。
気のせいか、顔が赤くなっている気がする。
.........カッコつけちゃったな。
元々自分は何のために曲を作りたかった?
そう聞かれると、言葉に詰まる。
10年も前から作っていたのだ。もう覚えてなんかいない。
──ただ、これは言える。
チラッと男性の方を見ると、店員さんは微笑んだ。
そう言うと、鳴音オトを差し出した。
自分もお金を差し出す。
そう交わすと、ベルの音を立てて店を出た。
『1ヶ月ちょい投稿出来てなくて申し訳ない...
リアルで仕事が溜まってて消化してた🙏
これから曲作り頑張るぞい💪』
おかしな所が無いか確認してから投稿を押す。
30秒後、いいねとRT、リプの通知が沢山来た。
盲目だった。
プレッシャーとか関係ない。
だって自分は自分のために曲を作っているから。
それでも着いてきてくれるファンがいる。
それだけで充分じゃないか。
次の曲、どんなのにしようかな。
スマホを見ていた依兎が声を上げる。
依兎が見せたスマホには、いまさっき投稿されたネオのツイートが表示されていた。
目をキラキラさせる依兎に対し、夜流は覚えてたのか......と後悔する。
何故500円と言ってしまったのだろう...5円でいいのに。
...今更辞めるとは言えないだろう。
ワクワクする依兎を背に、夜流は財布をひっくり返すのであった。
〜ボカロP編、終〜