教師の引率で1年生が大広間に入ってくると、皆の視線がそちらに釘付けとなった。
浮いた何百というろうそくの灯りに照らされ、新入生達の顔はとても緊張しているように見える。
「俺が入学した時もこんな感じだったな…」とぼんやり思い出しつつ、あなたは頬杖をつきながらその光景を眺めていた。
新入生達の前のスツールにつぎはぎだらけのとんがり帽子が乗せられた。すると古くくたびれた帽子のつばのへりが裂け、嗄れた声で歌い始めた。
帽子が歌い終えると、大広間はたちまち拍手喝采に溢れた。
___いよいよ組分けが始まる。
ABC順で最初に「アボット・ハンナ!」と呼ばれた少女が前の椅子に腰をかけると、帽子はその嗄れた声で「ハッフルパフ!」と叫んだ。
その後も「ボーンズ・スーザン!__ハッフルパフ!」、「ブート・テリー!__レイブンクロー!」といった具合にテンポ良く組分けられ、「ラベンダー・ブラウン!」でやっとグリフィンドール生が出た。
(1番左端のテーブルから歓声が上がり、フレッドとジョージが「ヒュゥ」と口笛を吹いた)
「ブルストロード・ミリセント!」と呼ばれた大柄な少女が帽子を被ると、彼女はスリザリンに組分けられた。
それを見たあなたは失礼だとは思いつつも「おぉ…」と声を溢した。
後輩にこの名を告げる度、大抵皆冷めた視線に変わって、離れていく。それも2年目となっては、2人で冗談を飛ばせるくらいに慣れきっていた。
しかしジョークを呑気に交わせていたのも束の間、ドラコ・マルフォイの名前が耳に入ると、2人の顔が固く強張った。
2人はこの世の終わりだとでも言いたげな顔を、互いに見合わせた。
以前、父の仕事の関係で魔法省に同行した際、ドラコの父に会ったことがある。
父とその人物の会話を見ているだけだったが___その時から2人はマルフォイ家に嫌悪感を募らせていた。
______何故かその後の組分けはよく覚えていない。
2人がハッと気づいた頃には、宴会そのものがお開きとなっていた。隣にいた生徒に足を蹴られなければ、いつまでも座ったままであっただろう。
寮へ戻る道すがら、あなたはげっそりとした顔でジェミーに話しかけた。
同じく顔をげっそりとさせたジェミーの問いに、あなたは「たしかグリフィンドール…」と力無く答えた。辛うじてハリーの組分けは聞いていたらしい。
またしばらく歩いていると突然、「ぐううぅぅ~…」という情けない腹の虫の音が聞こえた。
気になって音の発生元を探すと、そこには恥ずかしさで顔を真っ赤にしたジェミーがいた。
あなたもそうだが、2人ともマルフォイの組分けに気を取られ、夕食を食べ損ねたのである。あなたもジェミーも百味ビーンズしか食べていないため、お腹がペコペコだ。
本人の意思とは裏腹に鳴り続けるジェミーのお腹に、あなたは堪えきれずプルプルと震えながら笑い出した。
ジェミーの気迫に気圧されたあなたは、慌てて口を閉じた。いつに無く直感的な行動だったので、あなたはてっきり黙らせ呪文でもかけられたのかと思う程だ。
それはそうと、あなたも他にも何かしら食べないと寝れる気がしない。そこで二人は、灯りの少ない廊下を歩いて、こっそり厨房に向かうことにした。
周りを警戒しながら厨房へそっと入ると、何故か見慣れた姿があったので、二人は思わず声を上げた。
すると目の前の人物達は、屋敷しもべ妖精達に貰ったであろう、夜食を両手いっぱいに抱えて振り返った。
モグモグと食べながら喋ったフレッドから、ジェミーはサッと視線を逸らした。
恐らく先程の出来事を知られたくなかったのだろう。ジェミーが言葉を探して視線を泳がせていると、この時ばかりは空気を読めなかったあなたが喋ろうとした。
___が、即座にジェミーが膝カックンをお見舞いしたため、その言葉は続かなかった。
冷たい床に伏してプルプルと震えるあなたを無視し、ジェミーは落ち着かなそうにキョロキョロしている。
彼女に嘘をつく才能が無いことを思い出したのはあなただけではなかった。それに、今度は立ち上がったあなたがジェミーの頭をはたいた事は、言うまでもないだろう。
手に持ったヨークシャープディングを頬張りながら、ジョージがモゴモゴと喋った。
「いいよ」と言いながらフレッドはいくつか持っていた食べ物をジェミーに渡し、4人は厨房を後にした。
薄暗い廊下の少し先を歩くジェミーとフレッドの後ろで、ジョージがあなたに声をかけた。
そう言ってジョージは自身が持っていたハッカ入りキャンディーを、無造作に掴んでいくつか渡した。
「なんで分かったんだ?」とあなたが貰ったキャンディーを口の中で転がしながら尋ねると、「なんとなく」とジョージは無邪気に笑った。
その後も2人だけは少し陽気めに話していたが、フレッドとジェミーは「訳知顔」といった表情を浮かべていた。
___これは二人が毎度思う本音である。
ある程度歩き、夜食を食べ終えたところで、4人が互いに「おやすみ」と眠たげに言うと、自らの寮に戻っていった。
フレッド達別れた後、あなたとジェミーはあまり浮かない顔で談話室に続くドアをくぐった。
湖の中にあるスリザリンの談話室は冷たい大理石に囲まれ、緑のランプで統一されている。
あなたは冷たく、陰気臭いこの空間が嫌でたまらない。時に刺さる寮生からの視線や陰口も、より一層この部屋を暗くさせていると感じる程だ。
二人は息が詰まりそうなこの場所から逃げるため、足早に談話室を突っ切り、挨拶を交わす暇もなく階段を駆け登っていった。
やっと大勢の視線から逃げてきたが、まだ第2ラウンドが待ち構えている。___つくづく思っていたが、何故ここは相部屋制なんだ。気まずいばかりじゃないか___
そんなことを考えながら部屋のドアを開けると、あなたは「ハッ」と息を呑んだ。
恐るべきことに、プラチナブロンドの髪の少年が視界に入ったからだ。あなたは彼と同室になることを密かに嫌がっていた。
しかし二人は直接話したことは無い。
「もしかしたら普通に良い奴かもしれない」
あなたはそんな淡い期待を込めてつつ、全身を強張らせながら離れた所を通った。
するとマルフォイが「フン。見ろよ、”血を裏切る者”だ」と隠す気も無く鼻で笑ったので、あなたは思わずそちらを見た。
_____オレヤッパコイツキライ
本来ならその鼻を”純血主義”というプライドと共にへし折りたいのをグッとこらえ、あなたはそっぽを向いた。
珍しく残っていた理性に感謝しつつ、あなたはいそいそとパジャマに着替え、やっと心安らぐ空間で眠りに落ちた。
何かを言いかけ、はあはあと荒く息をしながら飛び起きたあなたの体は、大量の冷や汗をかいていた。
彼が持つ独特のオッドアイは見開かれ、得体の知れない恐怖に満ちている。
___否。恐怖の元凶は、彼が見た”夢”にあった。
あなたは昔から魘されやすく、悪夢を見て飛び起きることなんか日常茶飯事だ。どのみち杞憂だろうが、彼が見る夢は大切な人が傷つく様な内容ばかりである。
夢は「記憶の整理」と聞いたことがあるが、こんな物を見てしまう自分が嫌で仕方が無い。
そう言うとあなたは、トランクの中から5冊程分厚い本を取り出し、杖で灯りをつけた後、1冊を開いて読み始めた。
悪夢は見たくないが、寝ないと明日の授業にも影響が出るため、本を読んで眠気をおびき寄せることにしたのだった。
___その翌日。
寝坊したジェミーを置いてきたあなたは、目の下に、それは見事な隈を作って大広間に現れた。
戸惑いながら思考を巡らせているリーに、あなたは虚ろな目で笑いかけた。
作戦は見事に失敗だ。何がいけなかったと言うのか。
あなたがそのまま読書に没頭し朝が来た事をを察したリーは、苦笑いしながら彼を見つめた。
過去にも度々あったことなので、最近は割と慣れてきた。___が、問題はジェミーだ。(正確にはジェミー達だが)
兄妹なだけあって、ジェミーはあなたを凄まじく心配する。だが、それは彼女の機嫌を損ねるのと等しく、一度バレたなら1週間はカンカンだ。
「ちゃんと寝たのか?」と鬼の形相で詰め寄られることにうんざりしていたあなたは、心配をかけたくないのも相まってジェミーを起こさないで来た。
(どのみち男子は女子寮に入れないので起こしようもないが。)
恐る恐る振り返ると、ジェミーが腕を組んで仁王立ちをし、フレッドとジョージがその後ろに立っている。大広間に来る途中でジェミーに会ったのだろう。
3人に背後を取られたあなたの背中に冷や汗が流れた。今この瞬間笑顔のジェミーは、般若と同等の存在であると言っても過言では無い。
ジェミーの圧に押し潰されそうになりながら辛うじて喋ったあなたに、満面の笑みを纏ったジョージが追い討ちをかけた。
友への訴えも虚しく、大勢の生徒にジロジロ見られながら3人に引きずられてゆくあなたにリーが声をかけた。
___その後しばらく「イモウト、アカゲ、コワイ」と顔面蒼白で震えながら呟くスリザリン生がいたとか。
お久しぶりです。今回も無い語彙力を全力で絞りながら書きました(?)あなたが悪夢を見る描写がありますが、仲間を思っている分マイナス思考も働いている様な感じです。頑張れ少年。
御閲覧有難う御座いました!












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。