第9話

守りたい未来があるなら
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2026/01/04 00:55 更新


暗闇が訪れた。



彗星が地球に衝突したその瞬間、世界は一度消えたように感じた。



すべての音が消え、空気が凍りついたような感覚に包まれる。



だが、死が訪れる瞬間に、ふと心が落ち着くのを感じた。



俺とあなたは、手をしっかりと握り合い、共にその瞬間を迎えた。



あなたの手のひらの温もりが、俺の心を支えてくれるようだった。



「ぷり…」



あなたが、最後に小さく呼んだその名前が、俺の耳に響いた。



「うん…」



俺はその名前を返し、静かに彼女の手を握りしめた。



「私、幸せだったよ。」



あなたが言った。



彼女の声は静かで、穏やかなものだった。



どこか、安らかな気持ちで言っているように思えた。



「俺も…幸せだった。」



俺は心からそう思った。



そして、そのまま目を閉じ、静かにその瞬間を迎える準備をした。



二人で見た星空のこと、交わした約束のこと、



すべてを思い出しながら、ただ一緒にいられることに感謝しながら。



彗星の衝突が、もたらす終末を迎えたその時、



二人は何も言わず、ただお互いを抱きしめ合っていた。



警報が鳴り響く中、街の中は混乱の渦に包まれていた。



テレビやスマホからは、何度も繰り返し同じメッセージが流れる。



「彗星がこの地域に衝突します。今すぐ避難してください。避難場所へ急行してください。」



だが、街中の人々の多くはその声を無視し、手をこまねいていた。



商店街では、閉店の準備をする店主、友達と集まって



「どうせ死ぬんだから今のうちに楽しんでおこう」



と笑い合っている高校生たちが目立つ。



誰もが、未来を放棄したように見えた。



だが、俺たちは違った。



これからが本番、ここからが勝負



あなたと一緒に、必死に仲間たちを呼び集め、避難しようとする。



「みんな、お願い! 聞いてくれ!!」



俺は、大声で友達に呼びかけた。



「避難しなきゃ、間に合わない! 避難すれば、まだ間に合う!!」



集まったのは、俺たちのクラスの仲間たちだった。



最初は、誰も真剣に俺たちの話を聞いてくれなかった。



「いや、どうせ逃げても無駄だろ。彗星なんか来ても、俺らだけじゃどうしようもないじゃん?」



瀬良が冷笑を浮かべながら言った。



その言葉に、俺は一瞬言葉を詰まらせた。



でも、ここで引き下がるわけにはいかない。



みんなが諦めている中で、誰かが声を上げなければ、誰も逃げられない。



「だからこそ、みんなで逃げなきゃいけないんだ!」



俺はさらに強い口調で言った。



「一人でも多くの命を救うために、みんなで行動するんだ!」



あなたもその後ろで、必死に仲間たちに呼びかける。



「私たちが行かないと、誰も助からないよ!」



だが、最初はその言葉にも耳を貸さなかった。



みんなの目には、無関心が見え隠れしていた。



「そんなこと言っても、どこに行くんだよ?」



多々良が不安そうに言った。



「避難所なんて、もうみんな行ってるだろうし、今更…」



その時、俺はあなたの目を見た。



彼女も、最初は怖かっただろうし、何度も考えたはずだ。



だけど今、この瞬間に無駄にしてはいけないと思った。



「だとしても、俺たちが逃げることで、少なくとも俺たちの未来を守れるんだ!」



俺は、再び大きな声を上げた。



「守りたい未来があるなら、今すぐに動くべきなんだよ!!」



すると、少し黙っていた莉愛が口を開いた。



「あなた、わかったよ…。 私は最後まで親友を信じたい」



彼女は顔を上げ、決意を固めたように言った。



「みんな、今すぐ行こう!」



それを聞いた他のメンバーも、ようやく動き始めた。



友達の一人が、スマホを取り出して避難所の情報を確認し、「ここが一番近い!」と叫んだ。




「よし、行くぞ!」



俺はみんなの顔を見て、手を上げた。



あなたも、少しだけ涙をぬぐって、しっかりと俺の手を握り返してきた。



そして、俺たちは一斉に避難を開始した。



最初はみんな、少し戸惑いながらも一歩踏み出し、無理矢理歩き出したが、



次第に皆の足が速くなり、目的地に向かって走り始めた。



無駄にしたくない命、守りたい未来が、みんなの足を前に進めさせた。



その道中、俺たちはお互いを励まし合いながら走り続けた。



途中、転んだ友達を助けたり、疲れた仲間に水を渡したりして、何度も止まることなく進んだ。



「頑張れ、みんな!」



あなたが泣きながら叫んだ。



その涙は、ただの涙ではないと感じた。



彼女の涙には、絶望的な状況でも、希望を捨てずに進む力強さがあった。



ついに、避難所が見えてきた。



人々の姿が、集まっていた。



大勢の人々が、命を守るために集まった場所。



そこにたどり着いた時、俺たちの胸にはほっとした気持ちが広がった。



今はまだ終わりじゃない、そう思えた瞬間だった。



だが、彗星が近づいてくるのは、もう時間の問題だった。



だけど、少なくとも今、俺たちはお互いに守り合う仲間として、



最後の瞬間まで一緒にいられることを確信した。



「ありがとう、みんな。」



俺は息を整えながら、心から感謝の気持ちを込めて言った。



「最後まで一緒だよ。」



あなたも、静かに言った。




その言葉に、みんなが頷き、再び手を取り合った。



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