10年。
長く地獄のような日々は
いつの日か痛みもなくなり
感情を置いてけぼりにした。
初めのうちは抵抗さえしていた千代も、
汚されたその身体と行き場のない桂への後悔の念で段々と心がしに、表情は消えた。
そんな時、宇宙船の窓から見えた地球。
次の着陸が地球だと知り、
千代は目を見張った。
同時にあの日々が鮮明に甦る。
あの日最後の小太郎の表情は、いまだに脳裏に焼き付いて居て千代を苦しめていた。小太郎と過ごした幸せな日々が千代を深い闇から拾い上げるが、同時にどん底へと突き落とされる。
「小太郎....っ...」
死んだと思って居た心が痛む。
いまだに瞳からは涙がポタポタ落ちて
千夜は静かに嗚咽をあげる。
地球に着いても、自由は許されず締め切った船内船内から慌ただしく往来する人々を力無く見ていた。
そんな時聞こえた"桂小太郎"の話題。
千代は目を丸くして、その話を盗み聞きした。
生きている。
彼が生きていて、この近くにいるという。
そこからの彼女は死んだ心を取り戻すかのように、カルテットの目を盗んで色々と動いた。
取引きもした。
今更、会ってどうにかするわけじゃないけれど
桂小太郎の生存は千代に生きる意味を持たせた。
地球に来てしばらくしたある日、
千代がカルテットを暗殺しようとして準備をしている時だった。
城下を走る黒い服の集団と、
なびく漆黒の髪、変わらない装い。
「小太郎!!!!」
もしもう一度、あの日の私でやり直せるならば..
船体の窓へずるずると近づく、
千代は知らず知らずのうちに辛く暗い記憶を自分の中へと閉じ込めて、人が変わったようにその場から逃げ出した。否、小太郎に会うために走った。
会いたい、ただただ会いたい。
ポロポロと涙が伝う、今更会っても
彼は私の事など思い出したくもないだろう、
いや、覚えてもいないかもしれない。
それでも、それでも
もう一度だけ、彼に会えたら伝えたい。
強く強く願った。
あまりに強い願いは、
記憶を一時あの頃へと戻していた。
「小太郎...会いたかった。」
私の大切な人。
大好きな人。
強く
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。