アビス出現から数日後の土曜日。
支部全体が慌ただしかった。
いつもの空気ではない。
誰もが緊張している。
廊下を歩く職員達も。
部隊員達も。
皆どこか焦っていた。
それほどまでに。
Sクラスという存在は異常だった。
第七部隊は調査任務を命じられた。
戦闘ではない。
偵察。
接触禁止。
発見した場合は即撤退。
それだけだった。
ばぁうが資料を閉じる。
ぷりっつも言う。
いつもなら討伐前提。
だが今回は違う。
支部長自ら。
絶対に戦うな。
そう命令した。
山岳地帯。
昼過ぎ。
6人は慎重に進んでいた。
辺りは静かだった。
静かすぎた。
鳥の声がない。
虫の音もしない。
風だけが吹いている。
らぴすが周囲を見る。
木々は枯れていた。
地面はひび割れている。
魔獣の痕跡というより。
災害跡。
そんな光景だった。
ちぐさが小さく呟く。
誰も否定しなかった。
さらに進む。
すると。
巨大な爪痕が見えた。
山肌が抉れている。
まるで。
巨大な刃物で切られたように。
らいとが目を見開く。
莉犬が答える。
そして。
全員が黙った。
その時だった。
ゴォォォォォ……
遠くで何かが動く音。
地面が揺れる。
小さく。
だが確かに。
揺れた。
6人が顔を上げる。
そして。
見えた。
遠くの山。
その向こう。
黒い影。
巨大で、圧倒的。
アビスだった。
誰も喋れない。
ただ見てしまった。
その姿を。
山の向こうにいる。
それなのに大きい。
異常だった。
咆哮。
次の瞬間。
衝撃波が山を越えて届く。
ゴォォォォッ!!
ちぐさが、風の能力でいち早く気がつく。
6人が踏ん張る。
木々がなぎ倒される。
距離はかなりある。
それでも。
これだけの威力。
ありえない。
莉犬が即断した。
迷いはない。
戦う相手じゃない。
今は。
絶対に。
6人が走り出す。
その時。
バキッ!!!。
遠くで山が崩れた。
誰も振り返らない。
振り返りたくなかった。
だが。
音だけで分かる。
アビスが動いた。
ただ歩いただけ。
それだけで。
山が崩れた。
数十分後。
支部。
報告会。
6人は帰還していた。
そして。
誰もが同じ結論を出した。
第一部隊。
第二部隊。
第三部隊。
重い空気。
誰も楽観視していない。
そして、莉犬も言った。
第七部隊ですら。
そう判断した。
会議後。
屋上。
夕焼け。
6人は並んで座っていた。
珍しく。
誰も騒がない。
語彙力が消えていた。
それほど衝撃だった。
すると。
らぴすが空を見上げる。
皆が見る。
確かに。
強さは見た。
絶望も見た。
でも、
まだ本気でぶつかっていない。
まだ終わっていない。
すると。
莉犬が笑った。
らぴすが少し困る。
皆も笑った。
少しだけ。
空気が軽くなる。
ぷりっつが立ち上がる。
逃げる選択肢はない。
街がある。
守る人がいる。
家族がいる。
兄弟達がいる。
だから。
諦めるわけにはいかない。
その夜。
アビスはさらに進んでいた。
一歩。
また一歩。
市街地へ。
まるで。
終わりそのものが近付いてくるように。
誰もまだ知らない。
三日後。
第七部隊史上。
最大の戦いが始まることを。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。