と、髪の毛の長い、美しい少女はいいました。
おばあさんは、いい香水のにおいが、少女のからだにしみているとみえて、こうして話しているあいだに、ぷんぷんと鼻にくるのを感じました。
と、おばあさんはたずねました。
と、少女は答えました。
と、おばあさんはいいました。そして、少女をランプの近くまでつれてきました。少女はかわいらしい指を出して見せました。すると、まっ白な指から赤い血が流れていました。
と、おばあさんは、口のうちでいいましたが、目がかすんで、どこから血が出るのかよくわかりませんでした。
と、おばあさんは、たなの上をさがしました。めがねは、目ざまし時計のそばにあったので、さっそく、それをかけて、よく少女のきず口を、見てやろうと思いました。
おばあさんは、めがねをかけて、この美しい、たびたび自分の家の前を通ったという娘の顔を、よく見ようとしました。すると、おばあさんはたまげてしまいました。それは、娘ではなく、きれいな一つのこちょうでありました。おばあさんは、こんなおだやかな月夜の晩には、よくこちょうが人間にばけて、夜おそくまで起きている家を、たずねることがあるものだという話を思いだしました。そのこちょうは足をいためていたのです。
と、おばあさんはやさしくいいました。そして、おばあさんはさきに立って、戸口から出てうらの花園の方へとまわりました。少女はだまって、おばあさんのあとについて行きました。
花園には、いろいろの花が、いまをさかりと咲いていました。ひるまは、そこに、ちょうや、みつばちが集まっていて、にぎやかでありましたけれど、いまは、葉かげでたのしいゆめをみながらやすんでいるとみえて、まったくしずかでした。ただ水のように月の青白い光が流れていました。あちらのかきねには、白い野ばらの花が、こんもりとかたまって、雪のように咲いています。
と、おばあさんは、ふいに、立ちどまってふりむきました。あとからついてきた少女は、いつのまにか、どこへすがたを消したものか、足音もなく見えなくなってしまいました。
と、おばあさんはいって、家の中へはいって行きました。
ほんとうに、いい月夜でした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。