第5話

Vol. 4
35
2024/02/16 11:31
病院での出来事から三日後、貴方とLINEを交換して初めての連絡となる。ようやっと退院しました、何て当たり障りのないLINEを、嫌にドギマギしながら送った。数分経った後、ぴろん、という機械音が響いて、直ぐにスマホを見やる。貴方が打った文を見ていれば、またもや貴方からLINEが送られてくる。
鯉登
「そうか、元気になったなら良かった。それにしても急にLINEを交換したいだなんて…お前も積極的だな?驚いたぞ。」
鯉登
「あと、今週の日曜会えないか?それかビデオ通話したい。顔だけでも見たいんだ」
月島
「そんなつもりはありまs」
月島
「はi??」
月島
「はい?」
盛大に誤字をかましながらも、貴方が打った文を何度も見返す。会いたい?顔だけでも見たい?まるで付き合っている恋人たちみたいなことを言う貴方。いやいや、待て待て。待ってくれ。おかしいだろう、俺が貴方のことを想っていても、こんなにも急な展開は幾ら何でも驚いてしまう。それにしても最近の若者というものは打つのが早い。俺が返事をする間もなく返ってくるものだから、どうにも慣れない。所謂フリック入力というものか。俺は未だにローマ字入力だからか随分と遅い。少しくらい待ってくれないものか。
画面から一度目を話し、重く辛気臭い溜息をひとつ吐く。どうにも憎めない貴方。どうせならば断ってしまおうか、何て頭の隅に浮かんでいた。だが貴方がスマホを見てワクワクしながら待っていると思うと、何だかやるせない気持ちになる。ああ、もう貴方に侵されているのだと気付く。吝かではない、ないのだが。貴方には貴方なりの人生がある、何て不健康な考えを。迷いながらもスマホを見詰め、ゆっくりながらも正確に文字を打ち始めた。
月島
「いいですよ」
短いながらも俺の気持ちの全てが詰まったこの一単語。貴方から返信が来るまでの時間が嫌に長く思えて、大きく重い溜息をひとつ着く。額に手を当てれば、そのまま眉間に移動させてぐりぐりと刺激する。どうにも目が疲れてきた。画面の見すぎか?ぴろん、静かな部屋に機械音だけが響き渡る。ば、と勢い余ってスマホを投げそうになったが、どうにかこうにか投げずに済んだ。ちらり、貴方の送ってきた文を見ようと画面を見やる。
鯉登
「ほんとうか!?!!?!!。!?、」
月島
「そこまで言わせるおつもりですか」
少々意地の悪い返答か、と思いはしたものの、恥ずかしさが勝ってしまったのだから仕方が無いだろう。こればかりは察してくれ、と無機物相手に念を込める。まあ、こうしたって貴方がどう返してくるかは分からないのだが。恥ずかしい、何て俺らしくもない事を思えば、十二時だと知らせる鐘の音が鳴る。もう昼か。何か昼食でも、と思っていた頃、貴方からまたもやLINEが来る。
鯉登
「もう昼だな」
先程の内容とは打って変わって落ち着いた文章。乗っ取られでもしたか、と錯覚する程だ。どうした、それがどうした。そう言いたくなるのをグッと堪えて、質素で短く「そうですね」と返してやる。十秒も経たずにまたLINEの通知が鳴り響く。今はテレビも何も付けていないから、ただ外の住宅街の音だけが耳に響いていた。
鯉登
「良かったら、飯行かないか」
思わずえっ、と声が出てしまう。急すぎるだろう。先程までいつかの連絡を取り付けあっていたというのに。今からですか?と分かっているだろうことを、一応最終確認ということで送る。どうにも貴方は昔っから変わっていないようだ。行動力の塊な所、積極的過ぎる所、真っ直ぐすぎる所…上げだしたらキリがない。「今からだ」明るく光る画面が無慈悲にも告げる。いや、いや、急すぎる。此方の都合も考えて下さい、と辛辣にも告げるが、貴方は懲りずに連投してくる。
鯉登
「今は暇じゃないのか」
月島
「ええ。今出先ですので」
鯉登
「じゃあその場所を教えてくれ!そこで落ち合おう。」
無論、別に嫌な訳じゃない。貴方があまりにも急だから、それに貴方が意中の相手だから。どうにもドギマギしてならないのだ。むしろ嬉しいまであるもんだから、どうせなら勇気を出して行こうか、なんて思ってしまう。だけど貴方と並んだ時に身長や衣服の差が目立つのが嫌で、貴方のランクを下げているようで嫌で。どうにも了承し切れずにいたが、次に飛んできた貴方の言葉に思わず目を見開いた。
鯉登
「待て、お前まだ家に居るだろう」
何故バレた?それが送られてきた時に思ったことはそれだった。いや、だって別に位置情報など共有もしていないし…貴方と電話している訳でもない、他の友人と家で遊んでいた訳でも、テレビを付けていた訳でも、何か家に居る証拠を話した記憶も無い。どういう事だ?頭の中が困惑で埋め尽くされる。と、急にインターホンが鳴る。猫のように飛び跳ねては、スマホを置いて扉へと向かう。その間にも通知が来ていたのだが、スマホを置いてきぼりにした俺にはそれが分からずにいて。
鯉登
「今月島の家の前に居る」
鯉登
「インターホン鳴らしたから居るなら出てくれ」

プリ小説オーディオドラマ