歩きながら、前を向いたまま彼は尋ねた。その問いかけは、単なる上官としての確認というより、個人的な興味からくるもののように聞こえた。
「特には無かったと思う」という、少し考え込むような類の返答に、司は歩みを止めずに耳を傾けていた。二人の足音だけが静かな廊に響く。
彼は提案する。その声音は淡々としているが、内容には明確な誘いの意図が含まれていた。
了承の返事を得て、司はわずかに口角を上げた。闇の中では誰にも気づかれないほどの些細な変化だったが、それは紛れもない笑みの兆候だった。
彼の声には、計画がまとまったことへの満足感がかすかに含まれている。まるで子供が遠足を心待ちにするような、そんな純粋な高揚感。
話しているうちに、あっという間に類の自室の前に着いた。
その声音はいつものように平坦だが、珊瑚色の双眸はまっすぐに類の顔を見つめている。夜闇の中で、その眼差しは静かながらも強い光を放っていた。
彼はそう言うと、持っていたランプの持ち手を類の手へと移した。指先が触れ合い、互いの体温が微かに伝わる。司はすぐに手を離すと、一歩下がり、壁に背を預けるようにして立った。
それは建前だった。本当は、このまま類が部屋に入り、扉が閉まるのを見届けるまで、ここを動くつもりはないのだろう。その佇まいは、まるで主君を守る忠実な騎士のようでもあった。
最後の「また明日」という言葉は、明日の約束を強調するように、いつもより少しだけはっきりと響いた。
類が部屋の中へ消え、扉が閉まるかすかな音を聞き届けると、司はしばらくその場に留まっていた。やがて中の明かりが漏れなくなったことを確認し、ようやく彼は踵を返す。自室へと続く短い廊下を歩きながら、先ほどのやり取りを反芻していた。街へ行く約束。ただそれだけのことが、彼の胸を微かに温かくしていた。











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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。