去年の夏休みのことだった気がする。
よしきも俺も半袖に短パンだったからきっとそうだ。
よしきはマスターマスターのキャラクターTシャツを来ていた気がする。俺は適当なTシャツだったからあまり記憶にない。
その日はいつものように俺の家でゲームをしていた。していたのはスマボラだったか、それともスーパーマローやったか、覚えてない。ゲーム機をカチカチと言わせながら俺が対戦しているとよしきが声をかけた。
いつもの事だからゲームの画面から目線は逸らさずに尋ねる。カチカチとゲーム機を操作する音だけは記憶にある。
想像よりも真面目な質問で手が止まる。
そんなことをあまり考えたこと無かったし、適当にできることでもやろうと思っていた。だから
と答えた。
椎茸は忌堂家が代々してきた事だし、祖父さんにはそろそろ楽をして欲しいから継ごうと思っているのは本当だった。
少し間を空けて俺の質問によしきが答える。
きっと村は出たいと思っているんだろう。
苗字ではなく部屋番で呼び合うような、よくも悪くも距離の近いこの村をよしきは昔から息苦しいと言っていた。何かある度に都会に行きたいとほざいていたのだ。
少し切り離すような言い方をしてしまった自覚はあった。きっと俺がこんな言い方をすると思っていなかったんだろう。驚いたようによしきは目を見開いてしばらく固まっていた。
クビタチから都会、ましてや東京なんてすぐに行けるような距離じゃない。
でもそんな気にすることじゃないだろう。そう思いつつ、口に手を当てて大袈裟に口角を上げながら、
これは、俺の願望だったかもしれない。よしきが少しでも悲しんで欲しい、という、ただの、願望。クスクス、と音を立てて笑って、キモーッと付け足せば、すぐによしきは反応した。
って。“そうや、悲しいんや”と言ってくれなかったのは少し寂しかったけど、よしきは元々そうハッキリと言う人じゃないと分かっていたから特になんとも思わなかった。ただ、また強がってるなあ、と思った。そん時にはよしきが俺のことを少しでも意識しているのではないかと気づいていた。
沈黙がこしょばいのか、話題を切り出したのはよしきやった。
確かにそうだ。よしきのおとやんは林業やっとるし、おかやんはこっちで美容院やっとる。かおるもまだこっちにおると思うし、よしきは一人暮らしだ。俺も一人暮らし憧れるなあ、ええなあ、そうよしきに言葉をなげかけたあと、
冗談半分で、半分は本気で提案をした。正直すぐにそんなんやめやとか言われんのかと思っていたから意外とよしきが話を聞いていたことに驚いた。
とか付け足して。野グソなんてもうすることなんて無いけどなあ、と思いつつ、
と付け足す。村だったら全然出来るし、昔もしていたのは事実だから否定は出来ない。よっぽど今もできることに驚いたのか、それとも面白く感じたのか、
とツッコミを入れながら笑うよしきの顔はもやがかかったようにあまり覚えていない。そもそもよしきの顔を見ていなかったような気がする。当たり前のように毎日話していたから顔なんて時々見るぐらいだったと思う。あの後はなんて言ったんだっけ。確か、
とかやったな、よしきが顔を顰めて“いややー”って言った時は酷ー、とか言ってた気する。今思うと我ながら最高にキモイな。その後は、確か…
これだ。その後によしきが不機嫌になって彼女なんか出来ない、って言ったのを覚えてる。よしきは彼女とかタイプとかそういう話になると急に不機嫌になる。この日もそうだった。自分語りはしないものの、不機嫌になるから正直困る。でもそう直接言う気にはなれなかったから、笑ったまま
とからかい半分に言ったんだっけ。“彼女位てきるやろが!”って顔逸らして言ったような気がする。結局その後もっと不機嫌になったよしきを宥めるために俺がアイス奢ったんだよな。わざわざ山久まで行って、俺もよしきも好きなガチガチくんを2つ買って帰ったな。
ああ、これは一年の頃の冬だ。ヤマコーの制服は冬になると女子はセーラー服、男子は学ランになるから学校中が真っ黒に埋め尽くされているような気がした。俺は女子のセーラー服が可愛いからとかいう理由で絶対ヤマコー行こうって思ったんだっけな。そんでよしきも道連れにした気がする。
一度呼んでも珍しく気付かなかったよしきの背後を何度か優しく叩いたあと、
ともう一度声をかけた。そしたら案外すぐに気づいた。いつもみたいに音楽を聴いていた訳でもないからボーッとしていたのだろうか。そういえばこの日1日よしきは様子がおかしかったような…そんな気がした。この時はそんなこともお構い無しに、
そう話を切り出した。すると少し驚いたように一瞬、ほんの一瞬だけよしきは目を丸くした。その後、申し訳なさそうに眉を下げた。
よしきの一家は別に宗教に入っている訳でもない。所謂無宗教の一家だ。それは村の人からしたら珍しいことで、陰で色々言われていた理由の1つでもある。そんなよしきが神社に行くなんて珍しすぎる。何があったんだろうか、だから思わず、
と尋ねた。それは…と何かを言いかけたよしきは口を噤んで、なんでもない、と首を振る。その行動に何故かその時腹が立った。またいつものようにはぐらかすのか、そう思うと腸が煮えくり返る。思わず、
と言い捨てた。すると酷く悲しい表情をして、俯いたあと、顔をしわくちゃにして、とても怒った顔で
そう言い捨てて走っていってしまった。その時は怒っていたから追いかける気力もなく、また週明けに謝ればいいなんて、思っていた。
そして、その次の日によしきは行方不明になった。
なんだ、全部、夢か。よしきが、“生きてた”頃の。ずっと一緒にいた、物心ついた時からいたよしきの最後に見た顔が、表情が怒ってる顔とかしょうもない。ほんとうに。俺はいつもよしきを怒らせて、困らせて、泣かせてばっかりだった。俺がそばにいなかったらよしきはもっと人生を楽しんでいたかもしれない。俺に怒ってばかりじゃなかったかもしれない。そう思うと酷く寂しくて。今更だけどよしきに謝りたいと思ってしまう。半年間、ずっと、いや、もう半年じゃないかもしれない。おとやんが死んだ後からかもしれない。その頃から流すことの出来なかった、出来なくなってしまった涙が久しぶりに頬を伝って零れ落ちた。泣いていると分かれば、ああ、実の父が死んだ時は泣けなかったというのに喧嘩別れした友達には泣けるとかどうしようもねえやつ、と自分を客観視して、強がって呟いた。
おかやんが、“ご飯できたよー”とかけてくれた声が酷く優しく、酷く寂しく感じて、涙が止まらなかった。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。